■白(ジャ遊)■
ジャ遊。
サテライト時代です。
「ぎゃっ」
背後から聞こえた短い悲鳴に振り返ると、ジャックが男を殴り飛ばした所だった。 男が持っていたと思われる太い鉄の棒ががらんがらんと大きな音を立てて転がっていく。 遊星を後ろから殴ろうとしていたらしい男はジャックの足元に倒れこんだ。 「ひとつ貸しだ、遊星」 倒れた男を足先で蹴飛ばしながらジャックは笑った。 「わかった」 答えて遊星は、自棄のように飛び掛ってきた最後の男を地面に沈める。 サテライトではこういった抗争はよくある話だ。 相手の持っているモノや場所、人や情報、そういった物を狙って頭数だけは揃えて襲撃してくる。 もちろん其れだけではなく、単に言いがかりで喧嘩を吹っかけられることもよくある。 遊星は口数が少なく、愛想も悪いせいか、因縁をつけられることも多々あった。 「帰りが遅いと思ったらまたこんな連中と遊んでいたわけか、遊星」 「別に好きで遊んでいたわけじゃない」 不満そうにそう答えて、遊星は服に付いた泥を軽く払う。 相手の数が多くて、不覚にも何発か食らってしまった。 汚れの目立たない服でよかったと思う。 あまり泥だらけで帰ると、仲間たちに心配をかけてしまう。 しかし降りかかる全部の火の粉を、まったくの無傷ですり抜けるのは不可能に近い。 遊星の視界を白いコートが横切った。 サテライトでジャックの他にこの色を着る者を知らない。 「まったくあのチビが五月蝿くて仕方ないぞ」 チビ、とはラリーのことだろう。 遊星を心配するラリーの代わりに、ジャックが様子を見に来てくれた、ということらしい。 「・・・悪かった」 心配をかけたことを遊星は詫びた。 さらに説教が続くかと思われたが、ジャックは黙って遊星を見ている。 「・・・?ジャック?」 普段雄弁な者が沈黙していると気味が悪い。 何かあったのかと問いかけようとした遊星の頬を、ジャックは自分の上着の袖でぐい、と拭いた。 「汚れているぞ。またアイツが五月蝿いだろうが、遊星」 頬にも泥が付いていたらしい。 ごしごしと頬を拭くジャックの手を遊星は止めた。 「やめろ、ジャック」 「なんだ?またぎゃあぎゃあ騒がれたいのか?」 ラリーは遊星が絡まれて喧嘩をしてきたと知ったらまた心配するだろう。 だが、そんなことより、遊星は別のことが気になった。 「そうじゃない」 「服が汚れる」 ジャックの、白い上着が。 このサテライトでこんな目立つ白い上着を着て そして誰にも汚されず着続けているということは ジャックにしか キングにしか出来ないことなのだ 其れをこんなことで、汚すなんて。 「お前は駄目だなぁ、遊星」 ジャックは揶揄するように言った。 「こんなもの、洗えば済む話だろう」 汚れたとか汚れないとか。そんなことを気にするなんてくだらない、と言われた気がした。 「・・でも」 尚も食い下がる遊星にジャックは尊大に言い放つ。 「このオレが此処までしてやるのはお前だけだ、遊星。せいぜい光栄に思うがいい」 お前だけ。 特別な意味は無いのかもしれない。 だがその言葉は遊星の心に残った。 「・・わかった」 神妙に頷くと、またお前は駄目だなぁと笑われた。 END 遊星たんがジャックを好きすぎる(^^ゞ 白なんてフツーに着ててもすぐ汚れるのに サテライトであんな色を着てる人いなかったんじゃないかな、と。
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