■痛みなき悲しみ(京クロ)■

愛し君への恋心














 

仕事を終えてポッポタイムへ戻ると、窓に明かりが付いていなかった。
遊星も今日は出かけると言っていたが、ジャックも何処かへ行ったのだろうか。
帰りが遅いのは少し気になるが、まあその内帰ってくるだろう。
特に心配せずにブラックバードを押してガレージへ降りようとしたところで二人のものではないDホイールが停車しているのが見えた。
鬼柳の、Dホイール。
「鬼柳、来てるのか?」
勢いよくシャッターを上げた所で、いきなり室内の電気が付いた。
同時にパーンと大きな音。
思わず腕で顔を庇うと、その上から紙吹雪が降ってきた。
「へ?」
「クロウ、誕生日おめでとう!」
鬼柳に飛びつかれて、先ほどの大きな音がクラッカーだったと気が付いた。
「誕生日おめでとう、クロウ」
鬼柳を張り付けたまま固まるクロウに、クラッカーの筒を持った遊星が近づいて来てそう言った。
見ればテーブルの上に料理が並んでいる。
ジャックも同じように誕生日を祝う言葉をくれたが、その後にやりと笑って付け加えた。
「鬼柳だけでなくて悪かったな」
「は?」
遊星がノって来る。
「クロウは鬼柳と誕生日を過ごしたかったんだな」
「ちげーよ!真っ暗だし他に誰も居ないのかと思って」
「でも鬼柳は居ると思ったのか」
「外にコイツのDホイール停まってたからだろ!!」
どうやら幼馴染共は今日はこのネタで弄り倒す気満々らしい。
顔が熱くなった。
抱きついたままの鬼柳が嬉しそうに言う。
「クロウはオレの事待っててくれたんだな!」
「うっせー!てめーは黙ってろ!」


思わずごつんとその頭に拳を落としていた。





「クロウの愛が痛い」
自室に引っ込んでからも鬼柳は自分の頭を撫でながら文句を垂れている。
文句、とは言っても、照れ隠しも入った拳だったとわかっているから、ニヤニヤしているのが少しムカつく。
「お前が五月蠅いからだろ」
「ごめんって」
不貞腐れて見せると、宥めるように頭に手を乗せられた。
ぽんぽん、と叩くように。
子供扱いしやがって、と思うけれど、実は嫌いじゃない。
「生きてるからこそだよな、って」


クロウにこうやって触れて、触れて貰う事が出来るって、本当に幸せなことなんだなって思うよ。


そう言って鬼柳が笑う。

死んだり生き返ったり、死にたがったり。
忙しい男がそう言って、笑う。

クロウは頷いた。

「…そうだな。よし、もっと殴っとくか」
「あたっ!いやそうじゃなくて」
もう一発、と振り上げた拳を遮って鬼柳が言う。
「触れてくれるんなら、こっちがいい」
そっと触れるようなキス。
もう一回脳天に手刀を叩き込んでやる。
「痛っ!暴力反対!!」
「うるせーよ」



此処そんなに壁厚くねーからな?


そう言うと鬼柳は笑って、もう一度唇を落としてきた。









***


「……ウ、クロウ」
肩を揺すられて目が覚めた。
「ん、なんだよ、き…」
「き?」
シンジが首を傾げる。
き…?
クロウも首を傾げた。
誰かの名前を呼ぼうとして居た。
こんな風に苦労を優しく起こす誰かの名を。
一体誰と間違えたんだろう。
きで始まる名前の奴なんて、誰か居ただろうか。
「クロウ、寝ぼけてんのか」
シンジが笑う。
「寝ぼけてねえよ」
「こんなトコで寝んなよ。風邪ひくぞ」
ポン、と頭に手を乗せられる。

温かい掌。

嫌いじゃない、こうされるのがむしろ好きだ。
好きだった、筈なのに。


でも違う、何か違う。






違う、と解っているのに、何が違うのかは解らなくて、クロウは黙り込んだ。









 

 


END





京クロ
せっかくアークXにクロたん出てるんだもの、なんか書かなきゃ!
と思ったんですけど
アークの世界はイリアステルが歴史を改編した世界で
だから遊星たんや鬼柳は居ないの
今の長官をやっつけると歴史が修正されて
クロたんは鬼柳と会う事が出来るのよ…!という妄想

けど実はシンジ×クロたんもイケると思ってるw

クロたん誕生日おめでとう!ホントは漫画版のクロたんの誕生日だがまあ其処は一緒でいいよねってことで


愛し君への恋心
恋したくなるお題 (配布)




2015.09.06

 

 

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