■湯たんぽ(京クロ)■
京クロ+遊星たん
遊星がそろそろ自室へ引き上げて寝ようか、と思って立ち上がった時、すごい音が響いた。
壁に何かが叩きつけられたような。 またか、と思う。 此処の処、毎日のように響く音だ。 「・・今日もいい音だったな」 クロウの部屋を覗いた遊星は壁にぶつかって伸びている京介をみてそう感想を洩らした。 クロウがぶっ飛ばしたのだと一目でわかる状況だ。 「だってこいつが潜り込んでくるから!」 その言葉に特に非難するような響きは含まれていなかったが、ベッドの上でクロウは言い訳のように叫ぶ。 「だって独り寝は寂しいだろ」 復活の早い男が壁際でけろりと言う。 「一人で寝ろよ、いい年して!」 「だって寒いだろ。温めてくれよクロウ」 起き上がってべたりとひっついてくる京介を剥がしながら、クロウは再び叫んだ。 「ふざけんな!」 ああ、今日も平和だなぁと怒鳴り声と破壊音を聞きながら、遊星は呑気な感想を持った。 翌日の午後、遊星と京介が居間のように使っている部屋でテーブルを挟んで次の作戦のことで少し話をしていると、出掛けていたクロウが戻ってきた。 持っていたものを京介に押しつける。 「ほら」 渡された其れを京介はじっと見つめた。 「何だよこれ」 「湯たんぽ」 見てわかんねーの、とクロウはこともなげに言う。 「いやわかるけど」 「これで寒くないだろ」 ふふん、と勝ち誇ったようにクロウが笑う。 京介はしばらく手の上の湯たんぽに視線を落としていたが、やがて黙って部屋を出て行った。 気のせいかしょんぼりして見える。 「・・なんだぁ?」 いつものように何か言い返してくると思って構えていたらしいクロウは、拍子抜けしたようで、遊星を振り返る。 「何だ、あれ?もっと喜ぶかと思ったのに」 遊星は長くため息をついた。 クロウとしては、湯たんぽを手に入れてきたのは、寒い寒いと連呼する京介に対する、親切心からだったらしい。 京介が毎日のように布団へ潜り込んでくるのも鬱陶しいと思っているようだが、他意はなかったようだ。 京介の方はそうはとらなかったようだが。 「何か気に障ったかな」 いつもウザイほど騒がしい男がわかりやすくしょげていたので、クロウは気になるらしい。 クロウは優しいからな、と遊星は思った。 なんというか、そういうところはクロウの長所なのだと思うのだけれど。 「クロウ」 遊星は言った。 「ん?」 「野良犬でも野良猫でも、飼えないのなら情をかけてやるのは、酷な話だ」 ふざけているようではあるが、京介がクロウを好きなことは、見ていればわかる。 クロウも、京介のことが嫌いではないはずだ、と思う。 だが、遊星の見立てが外れていて、クロウが京介のことなどなんとも思っていないのなら、優しくして期待させるのは、気の毒だ。 「んん??」 クロウは何の話かわからずに首をかしげた。 「何だそれ」 「・・・例え話だ」 そう言って席を立つ。 遊星の言葉にクロウは俯いた。 「わかんねーよ、・・なんだよそれ」 クロウは馬鹿じゃないからこれで自分と京介の話だと気がつかないはずはない。 本当はそんなこと、気がつかせたくはないのだけれど。 ずっと一緒に、兄弟のように仲良く育ってきた、大事な・・親友。 だからこそ。 その晩、寝ようと思って散らかった作業台の上を片付けていると、いつもの音が聞こえた。 京介は遊星が思うよりもずっと、くじけない男であったらしい。 しばらくはまだ、今のままの関係が続くのだろう。 クロウにきちんと自分の気持ちを気付かせるチャンスであったのに。 変化が訪れないことにほんの少し安堵して、遊星はクロウの部屋へ足を向けた。 END 京クロ クロウたんが京介のこと好きなのに薄々気付きつつも 大事な親友盗られるのがちょっと嫌な遊星たんでございました。
|