■帰れない(京クロ)■
京クロ
ダグナーは元にも戻れるみたいなので妄想してみた。
少しからかってやるつもりだった。
地縛神の圧倒的な力の前に、怯えているのであろう遊星を見て楽しむつもりだった。 クロウの顔も見ておいてやろうと思ったのは、思い付きに過ぎない。 大事な仲間である遊星を傷つけた自分を、クロウは許しはしないだろう。 だが、ダークシグナーでは無い、昔の恰好で行ったら、どんな顔をするだろう。 以前の京介に戻ったのだと、喜んでくれるのだろうか。 この間の遊星との一戦は、誰かに操られていたものなのだ、という素振りでも見せたら、あいつのことだ、簡単に信じてしまうに違いない。 馬鹿みたいに。 其処でまたダークシグナーになってみせるのだ。 信じさせて、裏切る。 あの馬鹿はどんな顔をするだろう。 考えただけで楽しい。 「よう、クロウ」 瓦礫の山の上に立っていたクロウは、その呼びかけに、驚いた顔で京介を見た。 「鬼柳」 その反応に満足する。 さあ、なんと言ってやろうか。 クロウはものすごい勢いで山を駆け下りてきた。 そして、その勢いのまま京介をぶっ飛ばす。 予想外の行動に、京介は瓦礫に叩きつけられた。 座り込んだ京介の前に仁王立ちになってクロウが叫ぶ。 「鬼柳、てめえ、何考えてるんだよ!」 「何って、」 思ったとおり、クロウは遊星に怪我をさせたことが気に入らないらしい。 その辺りは予想通りだった。 京介は頭の中で考えていた通りのセリフを言ってやろうと口を開く。 気がついたら、此処に居たんだ。 そして、まるで、この間のことは何も覚えていないかのように振舞ってやるのだ。 だが用意していた台詞を口にする前に、ぐ、と胸倉を掴まれた。 「だいたい、お前今まで何してたんだよ!」 顔を近づけてクロウが言う。 「生きてるならさっさと帰って来い!馬鹿!!」 クロウの頬を伝う透明な滴がぼたぼたと落ちて、掴まれている自分のシャツを濡らすのを、京介はぼんやりと見ていた。 クロウは遊星が怪我したことで泣いているのかもしれない。 けれどそれだけではないというのは馬鹿でもわかる。 胸の中に何かが広がっていくのを、まるで他人事のように不思議に感じていた。 こんな思いはダークシグナーになってから感じたことがない。 温かい、この気持ち。 此処に泣いてくれる奴がいる。 「・・ああ・・ごめん?」 「ゴメンじゃないだろ!」 何を言ったらいいかわからずにとりあえず謝ると、クロウは又怒鳴った。 ごしごしと目を擦って、まだ涙の溜まった瞳で京介を睨みつける。 こんな時、どうすればよかったんだろうか。 昔の、自分なら。 どう行動した? 「・・・悪い、クロウ」 京介は言って、拳をクロウに突き出した。 「ただいま」 「・・・おかえり」 クロウはもう一度目を擦ってから、その拳に自分の拳をぶつけて、にっと笑った。 思わず、その体を抱きしめていた。 温かい。 「わ、何だよ鬼柳」 「うん」 「うんじゃねーよ。遊星にはちゃんと謝って貰うからな」 「うん」 腕の中で文句を言い続けるクロウは、しかしその手を振りほどいて逃げたりはしなかった。 もう自分は此方側の住人ではないのだと。 住む世界が違うのだと。 わかっていても、腕の中の温もりから手を離すことが出来ない。 ちょっとからかうために出てきただけのつもりだったのに あの薄暗く冷たいダークシグナーのアジトへ帰る気にはもうなれなかった。 END 京クロ ダグナーになっても元に戻れるみたいなので もうダグナーなんかやめて クロウと暮らせばいいじゃないの!という妄想。 クロウたんは喜怒哀楽がはっきり出る子なので 泣き虫なんじゃないかなと思ってる。
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