■蜘蛛の糸(京クロ)■

ダグナー
京クロでちょっとジャ←カリ











「ルドガーは何処行ったんだよ!」
鬼柳はそう言ってテーブルを叩いた。
いつもルドガーが座っている席は今は誰も居ない。
自分の席に座ったままのディマクは鬼柳の剣幕にも動じることなく、淡々と答えた。
「ルドガーはシグナー達を歓迎しに行った」
「遊星はオレの獲物だっつーてるだろうが!」
「落ち着け、鬼柳。少し撫でてやりに行っただけだ。後からお前たちも来いと言伝だ」
「ふざけんな!」
がん、と鬼柳はルドガーの椅子を蹴り飛ばした。
椅子は派手な音をたてて、転がった。
その音に、反対側に座っていたカーリーはびくりと身を竦めた。
怖い。
だが、彼はダークシグナーで、自分の仲間なのだ。
この死人の群れと仲間であること。
自分が同じものであること。
それが、一番怖い。
ディマクに掴みかからんばかりだった鬼柳が、ふと顔を上げた。
どこか遠くを見て、小さく呟く。
「・・・、光ってる・・」
「・・え?」
此処には蝋燭の明かりがあるだけだ。
鬼柳が何を言い出したのかわからず、カーリーは思わず訊き返す。
先ほどまでの激昂が嘘のように、鬼柳は黙った。
やがて誰かの気配を追うかのように、足早に部屋を出ていく。
カーリーなど目に入っていない様子だった。
「・・・追わなくて大丈夫なの」
「外へ出たのではなさそうだ」
放っておいて大丈夫だろうとディマクは答えた。
最初の勢いでは今にもルドガーのデュエルを邪魔しに行きそうだったが、そうではないらしい。
しばらくして、ミスティが姿を現した。
倒れたままのルドガーの椅子に少し顔を顰めたが、そのまま自分の席に着く。
鬼柳の仕業だとわかっているのだろう。
「困ったものね、あの子」
「鬼柳はどうしている」
「生贄の中から一人、連れ出していたわ」
ミスティは言った。
「大事そうに抱えて、自分の部屋に連れて行ったわ」
「そうか・・まあいい」
先ほどのように暴れられるよりはマシだと判断したのだろう。
ディマクはふう、と息を吐いた。
「その玩具に夢中になっている間に、ルドガーの方がケリが付けばいいが」

おもちゃ。

「違う、玩具なんかじゃないんだから」
ディマクの言葉に思わず反論していた。
鬼柳にとって、それは玩具などではないのだ。
どんなに遠くに居ても、どんな人混みに居ても、すぐに見つけられる。
その人以外の者が目に入らなくなる。
それは彼にとって光なのだ。

自分にとっての、ジャックのような。

ディマクは静かに言った。
「・・・死人は生者に焦がれるものだ」
「そうね。どんなに焦がれても、もう手には入らないのに」
ミスティはゆっくりカーリーを見据える。
死者の、黒い瞳。
「死者が生者を手に入れる方法はひとつ」

「殺すことよ」

「殺す、こと・・?」
「そう、だって殺さなきゃ、生きてる人間は死人と一緒には居てくれないでしょう?」
「殺す・・・こと・・?」
それしか方法はないのだと、ミスティは繰り返す。
カーリーは逃げるように席を立って、ベランダに出た。


殺すこと。
それでしかもう、傍にいられない。


ミスティの言葉が頭の中でリフレインする。




暗い穴の底から見上げる空は、ただ遠く、救いの糸は差し伸べられそうもなかった。











頬に触れる、冷たい感触に沈んでいた意識が浮上する。
誰かの、長い指。
重い瞼を無理やりこじ開けると、金の瞳が覗き込んでいた。
ああ、鬼柳だ。
「鬼柳、お前手ぇ冷てぇよ」
眠くて瞼が開けていられない。
クロウは再び目を閉じながら問いかける。
「寒いのか?」
鬼柳は寒がりだった。
よくこうやって人のベッドへ潜り込んできた。
クロウが一番体温高くてあったかいから、などと言って。
一緒に寝るだけなら許してやるのに、すぐ余計な事をしようとするから、蹴り出してやったものだ。
そう
鬼柳は寒がり、だった。
過去形であると其処でようやく気がついて、慌てて眼を開ける。
何処かわからない薄暗い部屋の、固いベッドの上。
ゆらゆら揺れる蝋燭の炎。
そして、黒い闇に浮かぶ金の瞳。
「鬼りゅ・・」
体を起こそうとしたが、それは適わなかった。
上手く動かすことが出来ない。
妙にリアルな夢の中に居るようだ。
「クロウ」
鬼柳はクロウの身体に圧し掛かるように覆いかぶさってくる。
「オレはもう、寒くないんだ」
楽しそうに口の端を釣りあげながら鬼柳は続ける。
楽しそう、なのに何処か自嘲気味な台詞が続く。
「寒いってカンカクがわかんねぇって言った方が近いかぁ?もうすでにニンゲンとは言えねーんだろうな」


ニンゲンとは、言えない。


鬼柳の言葉の意味がわからなくて、クロウは瞼を瞬かせる。
黒い霧に撒かれた影響だろうか。
上手く思考が働かない。
何を、言ってるのだろう。

ダークシグナーは、人間ではないとでも?



「雨に濡れてあんなに寒くて寒くて・・誰かの名前を呼んでたはずなのになぁ」
何処か遠くを見るような仕草で、鬼柳の瞳が揺れる。
「全部忘れちまった」
鬼柳は馬鹿みたいにけらけらと高く笑った。
鬼柳は両手でクロウの頬を包んで顔を近づけた。
「クロウ、お前あったかいなぁ・・」


「クロウは一番体温高くてあったかい」


それだけはまだ覚えてる、と鬼柳は言う。
「なあクロウ、あっためてくれよ」



押しつけられた唇はただ冷たくて。
蜘蛛の糸に絡めとられた獲物のように自由にならない体では、押しのけることも、温めるために抱きしめてやることさえも出来なかった。







END






ダグナ京クロ。ちょっとジャ←カリなびみょな話
クロウたんは京介がちゃんと保護してあれやこれやしてるって思わなきゃ
やってられないんですよ;
ラリたんもマーサも全部終わったら戻ってきてくれるとイイナ・・
でもその時は京介は・・と思うと・・あああ;;


しかしお父さん(ルドガ)が仕事(遊星たんとデュエル)してる間に
長男恋人部屋に連れ込んでアレしてる話になった(笑)

くものいとってハナシ昔国語の教科書に載ってた気がする。アクタガワリュウノスケの。
救いの糸が垂れてこない、ってのはその辺から。
 


2009.02.22

 

 

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