■卵(京クロ)■
満足・京クロ
卵割りを練習する京介の話
「お、今朝はクロウが当番なのか」
朝食の支度をしていたら、京介がやってきた。 クロウの作る飯は美味いよな、とか何とか言ってなんだか嬉しそうだ。 腹が減っているのか、狭い台所からちっとも立ち去らない。 「其処に居るなら手伝え」 邪魔なのでこき使ってやることにした。 京介は基本頼まれれば嫌だとは言わない。 「何すればいい?」 「卵割ってくれ」 クロウはそう言って、ボウルと卵を京介の手に押しつけた。 コンロもフライパンも一つしかないから、全員分作るのにはちょっと時間がかかる。 手伝いが居るなら正直ありがたい。 立ってるものは親でも使え、という奴だ。 京介はボウルの縁で卵をコンコン、と叩くと、ぐしゃりと握り潰した。 「この馬鹿!」 「いてえ!!!」 クロウは持っていた菜箸で、京介の額をバシリと打ってやった。 「痛てーよクロウ〜」 額を押さえてぎゃあぎゃあ喚く京介に怒鳴る。 「いてーよじゃねーよ、誰が握り潰せって言った!割れって言ったんだよオレは!!」 「・・・ごめん、オレ卵割るの苦手なんだよ」 クロウの剣幕に小さくなって京介は答えた。 器用そうな顔をしているくせに意外に鈍くさい。 クロウはため息をついた。 「道理でお前の当番の時、殻が混じってると思ったぜ」 「カルシウムも取れていいだろ?」 ヘラリと笑って京介が言う。 全然反省していなさそうなその様子に、もう一度菜箸を見舞ってやった。 「ったく」 目玉焼きにしようと思っていたが、黄身がつぶれてしまっては仕方ない。 冷蔵庫に賞味期限が昨日で切れたハムが残っていたはずだ。 アレを使ってハムエッグにしてしまおう。 クロウはサクッとメニューを変更すると、京介の手からボウルを取り上げた。 「もーいいからあっち行け、邪魔」 冷たい言葉にデコの赤い京介が追い縋る。 「リベンジさせてください〜」 「あーもー鬱陶しいな」 ボウルの中の殻を取り除きながら、クロウはもう一つ別のボウルを取り出して京介に渡した。 「あと3個な」 「おう!」 返事だけは威勢が良い。 クロウがフライパンを温めて油をひく間に、京介は2個目の卵に挑んだ。 コンコン、と卵にひびを入れる。 其処まではいい。 「何で其処で割れ目に指突っ込むんだてめえは!」 菜箸を構えると、京介は逃げ腰になりながら言った。 「だってなかなか割れないから」 「だからって指突っ込むな!また殻が入っちまったじゃねーか!もっと優しく割れ!」 慎重になるあまり、上手く割れないというのは良くあることだが。 「ああ、もっとクロウに突っ込むみたいに、こう、優しく入れればいいのか」 「違う!!!」 立てた指を動かして見せる京介に、クロウが熱したフライパンを振り回した。 鼻差で避けて京介が叫ぶ。 「わーうそっごめんクロウ、そんなんで叩かれたら火傷する!禿げちゃう!!」 「ったく」 禿げたリーダーを見るのは忍びないので、とりあえず次に賭けることにした。 一つ目のハムエッグを作り終えて、皿に移す。 フライパンを熱しすぎたせいか、ちょっと焦げているが、まあそれは責任とって京介に食べさせれば良い話だ。 クロウは空いたボウルを京介の持っていたボウルと交換して言った。 「あと2個」 「おう!」 今度こそ課題をクリアすべく、京介が卵に挑む。 へこたれないその姿勢は立派だと思う。 此処は上級者としてアドバイスくらいしてやるべきか。 そう思って京介の方を見ると片手で割ろうとしているところだった。 クロウは怒鳴った。 「つか片手で割ろうとするな初心者が!」 「だってその方がカッコいいじゃん」 「フツーに割れるようになってからにしろよ!」 菜箸でフライパンをガンガン叩くと、京介は大人しく両手で卵を割ろうとした。 が、失敗。 だが前の2回よりもずっと進歩している。 まあ一応、やる気だけはあるようだ。 クロウは言った。 「テーブルの角で叩くより平らな所で叩いた方がいいんだ」 「え、そうなのか?」 「その方が綺麗に割れる」 クロウのアドバイスを受けて京介は卵割りに再び挑戦した。 卵割りを監視しながらハムエッグを作るのもなかなか骨が折れる作業だ。 クロウは3つ目のハムエッグを作りながらそう思った。 だけど。 一人で作った方がよっぽど楽な気がするのに、ほんの少し楽しいのは何故だろう。 「割れた・・!」 京介が言った。 「クロウ、割れた!」 差し出されたボウルの中に、綺麗な卵が入っている。 黄身も潰れていないし、殻も入っていない。 「おお、綺麗に割れたな。さすが鬼柳だ」 卵を割るのにさすがも糞もないが、あまりにも嬉しそうにボウルを見せるものだから、つい褒めてしまった。 猫が飼い主に喜々として取った獲物を見せに来た、そんな感覚だ。 「あとは慣れだな。まあ一回出来りゃ大丈夫だろ」 クロウが言うと、京介は目をキラキラさせて言った。 「もう一回割っていいか?」 え、もういらねーんだけど。 しかしクロウは、褒められた犬が超嬉しそうに尻尾を振っているかのような京介の様子に、その言葉を発することが出来なかった。 END 満足・京クロ そんで買い置きの卵をあるだけ割ってしまって 毎日3食卵料理が続いて ジャックがブチ切れる(笑) クロウたんは子供相手にしてるからとりあえず出来たら褒めると思うんだ。 伸ばす教育(^−^) 家事は手伝ってもらった方が良いよね、分担しなきゃね、 旦那の躾は最初が肝心よねって話でした(そんな話か?)
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