「・・・ってことがあったよな、昔」
「そうだな」
あまり綺麗では無いが、大きめのソファの上で、隣に座り、遊星はクロウの言葉に頷いた。
マーサの家での出来事だ。
懐かしい。
「あン時は一番暖かくてラッキー、くらいに思ってたけど」
クロウはじっと遊星の目を見て言った。
「もしかしてオレ、湯たんぽ代わりにされてたんじゃね？」
「・・・・」
「黙るなよ！つかいつまで人の頬っぺたで手を温めてるんだ遊星！」
クロウの頬を両手で包むようにして触りながら遊星は言う。
「指先が冷たいんだ。細かい作業がしづらい」
「だからって人の顔で暖を取るなっつの！」
「此処が一番暖かい気がする」

だってクロウが笑うと温かい気持ちになるから。

「あのなぁ」
ぶちぶち文句を言うクロウだが、遊星の手を払って何処かへ行ったりはしない。
「つかジャックもさり気にオレで暖を取ってるだろ！」
「仕方あるまい、ストーブを仕舞ってしまったのだから」
遊星とは反対側のクロウの隣に腰かけて、ぴったりくっついたままジャックが答える。
「も一回出せばいいだろが」
「灯油代も馬鹿にならん。手に入りにくいし」
「そりゃそうだけど、何でオレ？！」
暖房代わりにされるのがどうしても不満らしいクロウに、ジャックと遊星は声を揃えて告げた。

「「一番温かいから」」

見事なハモリ具合にクロウはため息をついた。
口を尖らせて言う。
そんな顔をしていると温かくない。
「あーもーいいよ。勝手に湯たんぽ扱いしてろよー」
「拗ねるな」
ジャックが言う。
「浮いた灯油代をお前の所の子供たちのおやつ代に回してやってもいい」
「マジで！」
子供たちを大切にしているクロウは、ジャックの言葉に食いついた。
目をキラキラさせて嬉しそうに笑う。
「んなら我慢するぜ」
笑っていた方がやっぱり温かい気がする。
遊星も笑った。
「クロウ！外寒かった！」
「うわ！」
外から帰ってきた京介が部屋に入ってくるなりクロウに抱きついた。
「いきなり飛びついてくるな！」
「だって寒かったんだぜ」
ぎゅう、とクロウを抱きしめて京介が言う。
仕舞ってしまったストーブの代わりに暖房器具となる、と決めたせいか、クロウは比較的大人しく京介の腕の中に居た。
おかげで遊星の手はクロウの頬から離されてしまった。


盗られて、しまった。


そんな感情が胸の中に広がって、なんだかもやもやする。
盗られるも何もクロウは自分のものでもないのに。
ただ、大切な幼馴染であるというだけで。



頬を擦り寄せる京介の腕から、ジャックがクロウを取り上げた。
「そんなに寒いなら、ストーブを出してやろう」
「え、マジ？」
京介とクロウが目をぱちくりさせる。
ジャックが前言を撤回するなど珍しいことだ。
「大事なリーダーに風邪を引かせるわけにはいかないしな」
「ずりぃ！オレが言っても出してくんなかったくせに！！依怙贔屓反対！」
ジャックに抱えられてぶーぶークロウが文句を言う。

ジャックはクロウを遊星の近くに下ろし、ストーブを出しに行った。
「おやつ代どうなんのかなぁ？」
「少しは回してくれるだろう」
クロウは呑気に子供のおやつの心配をしている。

再び手をクロウで温めながら、ジャックも多分同じような感情を抱えているのだと知って遊星は少し安堵した。




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