■カナリア(京クロ)■

ダグナ・京クロ








鬼柳が機嫌のいい時に歌う歌があった。
何処かの地区を制圧したときとか、祝宴の席で歌うわけのわからない歌。
鬼柳自身も良く覚えてないらしく、歌詞が出鱈目で。
だけどその陽気な歌が好きだった。





鬼柳の身体がまるで砂か何かのようにさらさらと崩れていく。
鬼柳は笑った。
「もう死んでるくせに、死ぬの怖えーって言ったら笑うか?」
昔と同じような軽い調子で言う。
「笑わねえよ」
クロウは答えた。
怖くない奴なんて居ない。
「怖えーっつか、あそこ超寒みーんだよな。それが嫌だ」
「お前寒がりだもんな」
昔から寒いのが嫌いで、クロウは暖かいとか言ってはよく引っ付いてきた。
「つか腹仕舞えよ、腹」
「はは、ちげーねーな」
腹を指さして言ってやると、鬼柳は自分の腹を見て笑った。
それから真面目な顔で言う。
「もし」


「怖えーから一緒に行ってくれっつーたらどうする?」


「いいぜ」
その答えに鬼柳は却って慌てたようだった。
信じられなかったのかもしれない。
「即答かよ」
「わりぃかよ。ぐだぐだ考えんのは性に合わないんだ」
鬼柳はゆっくりと目を瞬かせた。
「ああ・・・・そういう奴だったなお前は」
何処も映していないようだったその瞳が、ようやくクロウを見る。
さらさらと崩れる腕が、クロウを抱きしめた。
鼻歌でも歌い出しそうに上機嫌だ。
気がつくと、本当に歌っていた。
例のよくわからない歌。
「相変わらず変な歌だな」
腕の中でそう言ってやる。
「そうか?」
鬼柳は言った。
「今、思いだした。・・・あんなに歌ってたのに、今まで忘れてた」
全部思い出した、と鬼柳は繰り返した。
クロウを抱く腕に力が籠る。


「クロウのおかげで思いだせたわ。ありがとな」




鬼柳が機嫌のいい時に歌う歌があった。
何処かの地区を制圧したときとか、祝宴の席で歌うわけのわからない歌。
海賊の歌だとか言っていた。
その陽気な歌を歌う鬼柳が好きだった。




自分の身体に回された腕が風になって消えても、クロウは顔を上げなかった。






END



ダグナ・京クロ
自分で書いといて凹む・・・(ばか)

うたをわすれたカナリア
優しくしてあげないと思いださないのよ。
カナリアが歌わないのは恋を忘れてるからという説もあるようです。


2009.04.19

 

 

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