猫の鳴き声がする。
声の方へ足を向けてみると、京介の元に猫が集まっていた。
「また猫に集られてんのかよ」
「おークロウ」
猫に餌をやっていたらしい京介は、クロウの言葉にひらひらと手を振って答える。
猫たちはクロウに警戒するかのように動きを止めたが、すぐに何事もなかったようににゃあにゃあと鳴き出した。
大分懐いている感じだ。
「一回餌やっちまうと駄目だな。集まってきちまって」
困ったな、と少しも困っていない口調で言う。
猫は寂しい人間がわかるという。
京介は、寂しいのだろうか。
足元の一匹を撫でてやりながら京介が言う。
「こいつらきっとオレのこと餌だと思ってるんだぜ。そのうち食われちまう」
「阿呆か」
クロウもしゃがみ込んで同じように自分の足元にすり寄ってきた猫の喉を撫でてやる。
猫は満足そうにゴロゴロとのどを鳴らした。
「猫が人間なんか食うか」
クロウの言葉に京介は反論する。
「でもヒッチコックの『鳥』みたいに突然人間を襲ってくるかもしんねーじゃん」
ヒッチコックというのが何なのか、クロウは知らなかったが、鳥の悪口を言われたようでむっと押し黙った。
猫も嫌いじゃないが、空を飛ぶ鳥が好きだ。
京介はクロウの様子に気がついたようで、さり気に話題を変えた。
「そういや猫ってすっげージャンプ力あんのな」
「へー」
「其処の塀の所に烏が居たんだけどよ、地面からジャンプして捕ろうとしてんの」
京介の指差す先には、クロウの身長と同じくらいの高さの塀がある。
「すげえな。あんなに跳べんのか」
感心するクロウの声に、京介は苦笑交じりに言った。
「まあどんだけ跳べてもやっぱ相手は羽があるからなぁ。さっさと飛んで逃げちまったぜ」
「そうだろな」
クロウは頷く。
「猫に捕まる烏なんて余程の間抜けだろ」
「そうだよなぁ」
京介は独り言のように呟いた。
「羽のある相手なんて、そうそう捕まえられないよな」
*
ブラックバードが通信が入ったことを告げて、鳴っている。
しばらく無視していたクロウだが、相手が諦める気がないのを悟るととうとうキレた。
「うっせーよ!」
『よぉクロウ、久しぶり〜』
モニターの向こうで京介がひらひらと手を振る。
「『久しぶり〜』じゃねえよ、てめえ一昨日も通信入れてきただろうが!こっちは仕事で忙しいんだっつーの!!」
『そうだっけか』
画面の向こうで京介は本当に忘れてんのか、という様な態度で返答した。
『だってクロウが寂しがってんじゃないかと思って』
う、と思わず詰まる。
マメに連絡を入れてくる京介だが、その分、間が空くと不安になるのは事実だ。
何かあったんじゃないか
また自分の手の届かない所へ行ってしまったんじゃないか―――
其れを見透かされているようで悔しいので言い返してやる。
「寂しいのはてめえだろ」
『ばれたか』
陽気に京介は笑う。
『まあでも前ほどは寂しくねぇかな。一緒に居なくても、一人ぼっちなわけじゃねえって思える』
「ばーか、おせえんだよ、気づくのが」
毒づくと、まったくだ、とモニターの京介は楽しそうに笑った。
寂しがり屋の猫に捕まってしまった。
気が付いてしまったらもう逃げられない。
「でもあんまほっとくと飛んでっちまうからな」
通信の切れたモニターに向かって言ってみても、我ながら負け惜しみにしか聞こえなかった。
END
京クロ
京介は寂しがりだからネコに懐かれると思うのですけども。