■夏・カレ−(京クロ)■
京クロ・満足時代
暑中見舞いになりそうな話・・と考えた結果 暑中見舞いから遠い話に;
「あっちーよー」
冷蔵庫の中身を確認していた本日の夕飯当番クロウは、何度目かわからないその声にとうとうブチ切れた。 「うっせーよ!鬼柳!!」 「えーだってあっちーんだもんよー」 カウンタの向こうでテーブルに突っ伏して京介が言う。 全く鬱陶しい。 「あっちーあっちー言うから暑いんだろが。シントウメッキャクすれば火に入っても大丈夫っつーだろ」 「『心頭滅却すれば火もまた涼し』、な」 ジャックの受け売りだが、適当に意訳して覚えていた格言を正しく訂正されて、クロウは不満気に口を尖らせた。 「だいたい意味はあってるだろが」 「まー意味はそんなカンジだけどもさー。つかそんなん悟りを開いた坊さんくらいしか出来ねっての。煩悩だらけのオレには無理です」 きっぱり無理だと白旗を上げる。 まあそうかもしれない。 しかし、傍で暑い暑いと繰り返されては、此方だって暑くて堪らない。 さらに京介が騒ぐ。 「クロウー喉渇いたー麦茶頂戴〜氷入れてー」 「冷てえもんばっか飲むなよ。んなんだから調子悪くなんだろーが」 夏バテとか腹壊したとか、そんなことしょっちゅうだ。 「あちいー水分補給しなきゃ死ぬぅー」 五月蠅い。 クロウはコップに氷を2つばかり入れると、台所から京介の傍までやってきた。 机にへばり付く京介のシャツを摘まんでコップの中身を背中に落としてやる。 「ぎゃあ!」 京介は文字通り飛び上った。 「涼しくなったろ?」 「ひでえ!」 シャツの裾から溶け残った氷を床に落として、京介はめそめそと泣き真似をする。 「もう少しリーダーを大事にしてくれよ」 「してんだろ」 クロウは言った。 「冷たいもんの取りすぎはマジでよくねえんだって」 此れは本当だ。 しかし京介は納得がいかないようで、テーブルに頬を付けたままぶーたれる。 文句タラタラのリーダーに、クロウは言った。 「暑い時には熱いもんがいいんだよ。・・うん、今日の夕飯はカレ−な!」 肉もあったし、玉ねぎも人参も残ってる。 じゃがいもが無いけど、まああるもので何とかなるだろう。 「カレ〜〜?クロウのカレー美味いけどぉ!でももっとさっぱりしたもんがいいー揖保の糸食いてえ」 「うっせえ。贅沢言うな。もう決まりだっつの。暑い時には熱いもの!」 そうと決めたらさっさと準備しなければならない。 キッチンへ戻ろうとしたクロウの腕を京介が掴んだ。 「あ?何だよ」 京介は、にやりと楽しげな笑みを浮かべている。 此れはロクでもないことを思いついた時の顔だ。 「暑い時には熱いもん、ならさ」 京介は言った。 「暑い時にはアツイこと、する?」 ぐっと、腕を引かれる。 「うっわ」 クロウはバランスを失って、京介の胸に倒れ込む形になった。 「クロウ・・・」 唇が、近づいてくる。 「ッふざけんな!!!」 ガポン、といい音がした。 持っていたコップで、京介の口を塞いでやったのだ。 「ったく」 痛え!と騒ぐ京介の口の周りには、丸くコップの跡が付いている。 思いっきり叩きつけたのだ。 ちょっとやりすぎた感はあるが、まあ仕方ない。 悟りから遠い、こいつが悪い。 「お前のカレーはうんと辛くしてやるからな」 心頭滅却の境地には程遠いリーダーにそう言うと、クロウは夕飯の準備のために台所へ向かった。 END 京クロ・満足時代 暑中見舞いっぽい話・・と考えた結果 やっぱ夏はカレーだね!的な話になったという; もう立秋過ぎてますが(^^ゞせっかく書いたんで。 残暑見舞い用の話も今書いてます(遅) 揖保の糸はフツーの素麺とかと比べると高いよね・・ 美味しいけど。
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