■月が綺麗(京クロ)■
京クロ
一泊したみたいだったから。
京介が使っていたというその部屋は、何も無い部屋だった。
ベッドと小さなテーブル、それに椅子。それだけ。 眠るためだけの部屋。 部屋の主は子供たちを寝かし付けに行った。 案内されたはいいが、こう何もないと手持無沙汰だ。 ロットンが街を爆破したせいで、使える部屋は限られているが、遊星とジャックは適当な部屋を見つけて今夜は其処に泊まるらしい。 邪魔にされても其方について行くべきだったか、と思う。 このままだとつまり、京介が戻ってきたら、この部屋に朝まで二人っきりということになる。 らしくもなく、緊張している。 何を話せばいいんだろう。 話すことはたくさんあったはずだ。 遊星の話を聞いて、ぶん殴ってやろうかとも思っていた。 だけどあの時、自分を見上げて「クロウ」と呼んだ、あの声を聞いたら、なんかもうそれはいいや、という気分になった。 見た目がどれほど変わろうと、あの頃と同じ声で自分を呼んでくれた。 それだけで、嬉しかったから。 ふと窓の外が明るいのに気がつく。 窓辺に近づいて見上げると、大きな月が覗いていた。 昔、サテライトで見た月は、濁った靄の向こうに霞んでいたし、今、シティでは、街の明かりが強すぎる。 夜空に、こんなくっきりと浮かぶ月を、見たことがなかった。 なんて、綺麗な月。 背後でドアの軋む音がした。 クロウは振り返らずに声をかける。 「すげー綺麗な月だな。此処じゃこんな風に見えんだ」 部屋に入ってきたのがてっきり京介だと思ったのに、返事が無いことを不審に思って振り返る。 締めた扉の前で、京介が此方を見て笑っていた。 昔と変わらぬ笑顔。 妙に照れくさくて、乱暴に言う。 「・・・何だよ」 「いや、なんか昔聞いた話思い出してさ」 京介はクロウの隣に立って、同じように月を見上げた。 「昔の文豪が、教師をしてた時に」 「うん?」 唐突な話にクロウは小首を傾げる。 そういえばコイツは妙なコトを知ってる奴だった。 「『I Love You』を『我、汝を愛す』って訳した教え子に言ったんだと」
京クロ どんなに見た目が変わろうが 変わらないものはあるって思いたい。 遠距離恋愛だろうが 負けませんよ私は(お前がかよ・笑) 漱/石が「月が綺麗ですね」と訳したらしいです
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