■甘えていいよ(京クロ)■

京クロ
二人で墓参り







仕事でシティに出てくることがあると、帰り際、必ず鬼柳は一緒に行こうとオレを誘った。
ピアスンの墓参り、だ。
花を買って、顔も知らない男の墓に供える鬼柳の心理がさっぱりわからない。
一応、ピアスンの話はしたけど、鬼柳にとっては関係ない事だ。
「なんでお前此処来んの?」
「宣戦布告。クロウはオレのもんだ、手を出すなって」
訊けば、無駄にいい笑顔で、いつもと同じ阿呆な答えが返ってくるので、容赦なく蹴る。
いてえ!!と大騒ぎする鬼柳は、今日も蹴りを避けなかった。
こんなんホントは簡単に避けられるくせに。
「死んだ人間はどんどん美化されちまうから敵わねえな」
「美化なんかしなくてもピアスンは大人でカッコ良かったっつの」
鬼柳のぼやきにそう返す。
「オレより?」
訊き返してくるので、当然だろ、と言ってやった。
ひでえ、と鬼柳は嘆く。
コイツはいちいち五月蠅い、と思いつつ、いつもと変わらないその様子にちょっと安心する。
ピアスンのことを、忘れるつもりはない。
忘れるわけがない。
だけど、生きてる人間の方がやっぱり強くて、鬼柳や遊星たちのことを考えてる時間の方が圧倒的に多いと気がつく時、愕然とする。
絶対に忘れない、と思っていても何時か忘れてしまうんじゃないだろうか。
顔も思い出せなくなってしまうんじゃないだろうか。
そんな不安に駆られてしまう。
もしかして、鬼柳はそんなオレの不安を知っていて、此処へ一緒に来てくれるんじゃないかって考えたりする。
甘やかされている、感覚。
もっと甘えていいんだよ、と言われているような。
まあ、買いかぶり過ぎなんだろうけど。
「帰ろうぜ」
拒否する間も無く、鬼柳がぎゅっと手を握ってきたので、道路脇に停めてあるDホイールの方へ引っ張られるみたいに付いて行く。
此処で別れて、鬼柳は自分の町へ帰る。
繋がれた手を振り払わないのは、らしくもなく墓参りで感傷的になってるせいだ。
嬉しそうに繋いだ手を振りまわす鬼柳に、言いそびれていた、でもずっと言おうと思っていた言葉を投げる。
コイツがこっちを見てない隙に言わないと、二度と言う機会が無いような気がした。
「お前が、生きてて、よかった」
小さな声だったけど、しっかり届いていたようだ。
先に立って歩きながら振り返らずに鬼柳は言う。
「生きていれば楽しいことが沢山あるんだって」
「なんだそりゃ。誰の受け売りだよ」
さっきの本音が恥ずかしくて、乱暴に返す。
鬼柳はしれっと言った。
「昔拾って読んだ漫画」
「漫画かよ!」
思わず突っ込むと、鬼柳は言い返す。
「漫画を舐めんなよ。意外に深いぞ」
「あーまあそうかもしんねえけども」
漫画は別に嫌いじゃねえけども、何で墓場で漫画議論を聞かなきゃならないんだ。
鬼柳は急に立ち止まった。
ぶつかりそうになって、どうしたのかとその背中を見上げる。
「そんなん嘘だと思ってた。生きてたって辛いばっかりでイイことなんて何にも無いって」
そんなことを考えていたのか。
何時の話だろう、チームを組んでる時からそんなこと思っていたんだろうか。
それとも、ダークシグナーだった頃だろうか。
死にたがっていたっていう、あの街へ着いた時だけならいいのに。
「でも」
鬼柳は振り返って、繋いだままのその手を引いた。
引っ張られて抱きしめられる。



「今はホント、生きてて良かったなぁって思ってる」



忘れることも怖いけれど、無くすのも嫌だなんて、勝手な話だ。
けれど鬼柳の腕の中はあったかくて、泣きそうになる。



「遅せーんだよ、馬鹿」
甘やかすのが上手くなった鬼柳を、そう言って蹴ってやる。
鬼柳はいてえ、と騒いだけれど、やっぱりまた避けなかった。






 


END






京クロ
いや別に京介はMで蹴られたいわけじゃなくてですね
クロたんが蹴りたいなら別に蹴っていいよっつか
色々経験して大人の余裕がでたっつか。
大人で甘やかす京介が書きたかったんだけども
なんか違うかも(^^ゞ

ちなみに京介が拾った漫画はわんぴです。


2010.05.02

 

 

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