「クロウ兄ちゃん!」
「クロウさん!」
ニコとウエストの声に出迎えられて、クロウはブラックバードから降りた。
メットを取って笑う。
「おう、二人とも元気だったか」
「はい!」
「うん!鬼柳兄ちゃんももうすぐ休憩で帰ってくるよ!」
訊ねてもいないのにそんなことまで言うウエストに、宅配の仕事だけではなく、京介の顔を見に来ていることが、子供たちにはわかっているのだなと思って苦笑する。
「クロウ!」
其処へ背後から嬉しそうな声がかかった。
「おう!」
振り返って手を上げる。
同じように嬉しそうな声を出すと、京介はすぐに調子に乗るから気を付けているのだけれど、ちょっと無理だった。
京介が笑うのでつい自分も笑ってしまう。
仕事で頼まれた荷物をおろして、確認した後、クロウは言った。
「そんで此れはニコとウエストにお土産な」
ブラックバードの荷台からカップ麺を取り出して2人に一個づつ渡す。
「わあ!汁粉ヌードルだぁ!」
「いいんですか?!」
子供たちから歓声が上がった。
「食べてみたかったんだろ?」
「ありがとうございます!」
「ありがと、クロウ兄ちゃん!!」
「よかったな」
京介がそう言ってウエストの頭を撫でた。
すっかり保護者の顔だなぁ、と思った。
と、此方の視線に気がついたのか、顔を上げて笑う。
ウエストやニコに向ける笑顔とは違うその顔に、ちょっとドキリとした。
そんな此方の気持ちなど知らぬ気に京介が言う。
「茶くらい飲んでくだろ?」
「・・おう、そうさせて貰うわ」
「すぐ、お茶の用意しますね」
ニコがパタパタと家の中へ消え、それをウエストが追う。
その後ろ姿を見送って京介が言った。
「よく手に入ったな」
前に、シティで人気の汁粉ヌードルをニコ達が食べてみたがってるという話を振ってきたのは京介だった。
その時は、人気商品で何処へ行っても売ってない、と返事をしたのだ。
事実、カップラーメンオタクと言っても過言ではないジャックでさえ、手に入れることが困難で嘆いていた。
「ジャックが根性でどっかから仕入れてきてよ、ニコとウエストが食べたがってるからくれよ、って交渉したんだよ」
交渉というか、まあ泣き落しに近い。
ジャックもあれで人情話には結構弱いのだ。
其処をついて、あの幼い姉弟の生い立ちを、目の前で父親を亡くしたことを、多少の誇張と大げさな身振り手振りを加えて訴えたところ、ジャックは一個づつやれ、と言ってくれたのだった。
「まあお前の分まではくれなかったんだけどよ。ジャックも3つしか買えなかったらしくって・・悪ィな」
その3つのうちの2つを子供の為に分けてくれたのだ。
京介もジャックのカップ麺好きは知っているから首を振った。
「いいさ、オレは甘いものそれほど好きじゃねえし・・・わざわざありがとな」
「ああ、うん。ジャックにも言っておくわ」
改めてそんな風に言われると何だか照れ臭い。
京介の笑顔が綺麗で、どうにも落ち着かない。
其れが自分だけに向けられるモノだと気がついてしまったら尚更。
誤魔化す様にそう言うと、タイミング良く家の中からニコの声がした。
「お茶が入りましたー」
「おーありがとな、今行く」
返事をして歩き出そうとしたクロウの腕を京介が掴んだ。
「なん・・っと」
何だよ?と言おうとしたクロウをさらに引き寄せる。
「前言撤回」
何が、と問い返す前に唇が重なった。
「甘いもんはクロウだけでいいわ」
他は要らない。
「・・っ」
恥ずかしい事を素で言うから始末が悪い。
幸せそうに笑うから尚悪い。
誰が甘いもんだ、と言いかえしたいのに言葉が出てこない。
どうしたらいいかわからずに顔だけが真っ赤になるのがわかる。
「お茶入ったよー」
声が聞こえていないと思ったのかウエストが呼びに出てきた。
「ああ、今行く」
なんかムカつく。
こんなにこちらが動揺しているというのに、何事もなかったかのようにウエストに答える京介の背を、クロウはドツいてやった。
END
京クロ・満足街
デレ気味クロたん(^^ゞ
子供たちも懐いてるし何時でも嫁にいけます。
ジャックは意外に子供好きっぽいし
くれるんじゃないかな・・と。
あのカップ麺に対する執着はすごいがな;