帰り支度をするためにズボンを穿こうとしたら、ポケットから何か転がり落ちた。
皺の寄ったシーツの上に転がった其れを、京介の白い指が拾い上げる。
まだ薄ら暗い部屋の中で、京介は其れを翳して見せた。
「何、こんな辛いガム噛んでんの。クロウ」
「眠気覚まし用だよ。運転中に眠くなったら困んだろ」
半分ベッドの上に戻って、そのブラックガムを取り返そうとしたが失敗した。
「返せよ」
「うん」
うん、と言いながら、京介は手の中のガムを弄ぶ。
この街から、クロウが今暮らしているシティまでは、結構距離がある。
夜が明けないうちに此処を出て、昼過ぎには向こうへ戻りたい。
ノンストップでブッ飛ばす、その為のガム、だ。
仕事の時も時々噛むけれど、そうそう眠くなったりしない。
むしろ口寂しい時用だ。
そもそも眠い理由はコイツにあるというのに。
「返せって」
焦れて身を乗り出す。
伸ばした手を、京介が引っ張った。
京介の胸の上に乗り上げた形になる。
文句を言おうと顔を上げると、京介はニッと笑った。
「眠くならない、おまじない」
ちゅ、と手の中のガムに口付ける。
そのまま、同じように軽い音を立ててクロウにも唇を落とした。
「・・・馬鹿か、お前」
不意打ちのキスにうっかり顔が熱くなってしまい、そう返すのが精いっぱいだった。
*
ブルーノと共に遊星が買い出しから帰宅してみると、丁度クロウは午後の配達の為に荷物の準備をしている処だった。
ブルーノが、Dホイールの横に居るクロウを見つけて邪気なくにこり、と笑う。
「クロウがいつも噛んでるガムあったから買ってきたよ」
クロウが買い出し担当の時は、荷物持ちとして連れて行くことも多いので、ブルーノもいつの間にかどのガムが一番気に入っているか覚えたらしい。
買い物袋を探ってガムを取り出し、投げる。
「お、サンキュー」
難無く受け止めたクロウは、しかし、受け取った姿勢のまま固まった。
手の中のガム相手に赤面している。
「どうしたの、クロウ」
その様子に、ブルーノが首を傾げた。
「いやっ、なんでもねえっ!じゃオレ、仕事行ってくらあ!」
聞かれたクロウはぶんぶんと何度も首を振る。
そうして大慌ててメットを被ると、ブラックバードに跨って飛び出して行ってしまった。
明らかに不自然な慌てぶりに、ブルーノはさらに首を傾げる。
「どうしたんだろ、クロウ」
「さあな」
多分、鬼柳が何かしたのだろう。
見当は付いていたが、遊星はそう答えるにとどめておいた。
END
京クロ
おまじない効果抜群。
ガムを見るたびにうっかり赤くなった自分を思い出すので
眠くなりません(笑)
そして遊星たんにはバレバレである(笑)