朝食をさっさと片付けると、何時もよりずっと早い時間にクロウはブラックバードに跨って言った。
「んじゃ、昼には帰ってくっから」
普段ならまだ仕事に出掛けるには早い時間帯だ。
その上、いつもそう忙しくない時は昼食は戻って来て食べるから、わざわざ断りを入れてくるのもなんだかおかしい。
「うん・・?」
自然ブルーノの反応も、はてなマーク付きになる。
「お昼、どうする?何か作って置こうか?」
不思議に思いながらもブルーノは聞いた。
クロウは、簡単に食べられるサンドウィッチなどを買ってくることもあるからだ。
その問いに対する反応も少し意外なものだった。
「ああ、いいよ。戻ってからなんか作っから」
こんなに早く出掛ける癖に、昼ご飯を作る時間はあるなんて、仕事が忙しいのか、そうでないのか、よくわからない。
ブルーノが口を開く前に、遊星が言った。
「そうしてくれるなら、ありがたい。オレ達ではDホイールを弄るのに夢中になって、昼の時間など忘れてしまうからな」
「うん、そうだね」
其れにはブルーノも同意した。
作業に熱中して寝食を忘れるなど日常茶飯事だ。
「ボク達が作るより、クロウの作ってくれたご飯の方が美味しいしね」
一応全員作れることは作れるのだが、子供の面倒を見ていたクロウが一番美味しいし手際もいい。
遊星の言葉を借りるなら、作ってくれるというなら、ありがたい話だ。
その後、2,3言葉を交わして、そそくさと出て行ったブラックバードを見送った後、ブルーノは言った。
「クロウ、何だか変じゃない?落ち着かないっていうか・・そわそわしてる?」
遊星は事も無げに答える。
「昼頃、鬼柳が来るからだろう」
「ああ、今日だっけ」
そういえば今日だった。
Dホイールと関係のない話題なのでうっかり失念していたが、3日程前に確かにそんな話をしていた。
向こうの都合もあるのだろうが、何時も突然顔を出すので、来るなら連絡くらい入れろとクロウがこの前散々怒鳴ったのが効いたらしい。
成程、鬼柳がやってくるのなら、クロウの言動も頷ける。
早めに仕事を片付けて、鬼柳の為に昼食を作って待っているつもりなのだろう。
もちろん鬼柳本人にはそんな素振りは見せずに。
なんて健気で可愛いんだ!
「クロウってほんと可愛いねぇ」
しみじみと呟くと遊星がじっとブルーノを見て言った。
「一応釘をさしておくが、このことを鬼柳に言うなよ、ブルーノ」
「え、どうして?」
可愛い恋人が、自分が来るのを楽しみに待っていてくれたと知ったら、さぞや喜ぶだろうに。
そう思って聞くと遊星は言った。
「だからだ。鬼柳が機嫌が良くなったら、クロウが照れて不機嫌になるだろう」
「ああ、そうか」
クロウはなかなか素直になれないタイプだから、確かに照れて不機嫌になってしまう可能性は高い。
早く会いたくてあんなにそわそわしていたのに、そうなったらちょっと可哀相だ。遠距離恋愛なのだから仲良く過ごさせてあげたい。
ブルーノは大きく頷いた。
「わかったよ、ボク、なるべく言わないように気を付けるよ!」
力を込めてそう言うと、遊星は大変不安そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
END
京クロ
クロたんが京介来るときにそわそわしてたら可愛いなって。
青野はうっかり余計なこと言いそうです(笑)