真っ暗だ。
自分の立っている上も下も横も、ただ黒い。
「何処だ、此処」
自分の置かれた状況がわからなくて思わず呟いた。
もちろん誰の応えも無い。
確か、今日はＷＲＧＰの決勝戦だった筈だ。
負けたけれど、確かに遊星にバトンを繋いだ。
ピットを出ていく遊星の赤いＤホイールと、其れに従うＢＦドラゴンの背を見送った。
しかしその後の記憶が無い。
攻撃力１５５００。
あの攻撃を食らったらただでは済まないだろうと覚悟はしていたが、まさか、死んだのだろうか。
「この鉄砲玉のクロウ様がこんなトコで死ぬわけねえ」
『何処から来るんだよその自信』
今度の独り言には答えがあった。
暗闇の中から響く声は、その音のみで姿は見えない。
「誰だ」
『いやその自信どっから来るのかと思って』
聞いたことのある声だが、誰だか思い出せない。
此方の問いに答える気は無いらしく、ただ質問を繰り返す。
『何でそんな自信あんの』
何故、と言われても答えるのは難しい。
死ぬ気などさらさらないからだ、としか言えない。
其れでもしつこく声は答えを促してくる。
クロウは言った。
「此処で死ぬつもりなんかねえし。オレはちゃんと歳くって爺さんになって死ぬの。それまで皆で笑って過ごすために遊星に繋いだんだよ。イリアステルの奴らやっつけて、アーク・・あーくれいどる？とか言うのが降りてくんのをぜってえ止める」
アーククレイドルの件で声は遠慮もなくげらげらと笑った。
『相変わらず横文字弱ええな』
「うっせーよ、・・っ」
名前が、喉に詰まったように出てこない。
糞ったれとか、馬鹿とか、そういう言葉の後に名前を付けてやりたいのに。
知っている筈のその音が出なくて胸が苦しい。
此方のそんな様子を気にする風でもなくからかう様に声は続ける。
『でもそれ自信の理由になってねえぞ』
しつこい奴だ。
「いいんだよ」
絶対死なない。
誰かを置いて先に死んだりしない。
大事な人間を亡くしたことがあるから。
残される痛みは嫌というほど知っているから。
其れを自分の大切な人間に味合わせたりしない。
何度面会に行っても会えなかった。
何度行っても追い返されるだけだった。
挙句、死んだと一言だけ。
何も無かった。
残されたものはだんだん消えて薄くなっていく思い出だけ、だった。
過去形だ。
何の因果が知らないが、この世に戻って来た鬼柳は遠い街で暮らしている。
遠いけれども行けない距離では無い。
会えない距離では無い。
今、あの街へ行くと誰もがクロウの顔を覚えていて、鬼柳なら今鉱山へ行っているとか、もうすぐ帰ってくるとか教えてくれる。
誰もクロウを追い返したりしない。
あの街へ行けば、鬼柳に会える。
だから。
「オレは絶対アイツより長生きするって決めてんだから」
「アイツがあの街で年くってジジィになってくたばるときはオレがしっかり看取ってやんだ」
一瞬、息を飲むような気配がした。
ややあって苦笑ともとれるような乾いた笑いが聞こえる。
『それってすげー殺し文句に聞こえるぜ』
声は続ける。
『「死が二人を別つまで」みたいな？』
「なんだそりゃ」
聞きなれない言葉にクロウがそう返すと、声は説明を付けてくれた。
『結婚する時の誓いの言葉。まあ宗教によって違うけどな。ちゃんとしたのは知らねえけど「健やかなる時も病める時も貧しい時も此れを愛し此れを敬い此れを助けその命ある限り愛することを誓いますか」大体こんなカンジかな』
「敬うトコねえし」
『ひでえ』
「あと『死が二人を別つまで』ってのが気にいらねぇ」
『じゃあ「死が二人を別っても」？』
「その方がいい」
其れなら、誓ってやってもいいかな。
クロウは笑った。
上機嫌で笑うクロウに、相手も笑った。
もうこの声が誰なのかわかる。
『じゃあそろそろ起きてくれよ。お前の大事なチビ共も、双子も、心配して泣きそうだから』
この声の所に帰ってやらなければならない。
＊
目を開けると今にも泣きそうな双子の兄妹の顔があった。
其れから、携帯から聞こえる自分を呼ぶ声。
「ばあか、鉄砲玉のクロウ様がこんなトコでくたばるかよ」
心配しなくたって絶対お前より長生きして見せるっつの。
ＥＮＤ
京クロ
来ないだのホセ戦でクロたんがもうどうしようってくらいカッコよくって
なんか色々妄想しました。
攻撃力１５５００を食らうなんて一見無謀なカンジだけども
遊星たんに繋ぐことで勝てるって思ったんだよ
クロたんは自分が死んだら泣く子供が居ることも
悲しむ幼馴染が居ることも知ってるし
特に京介は一人で放っておくと何するかわからないヤツだと知ってるからね
置いて行くわけないよ！
という妄想を詰め込もうとして失敗したカンジも(^^ゞ
でもこの次の放送前にあげておかないと
ホントにただの妄想になっちゃうのでＵＰするよ。
横文字弱いクロたん萌えを入れられたのは満足（笑）
誓いの言葉は一応調べたのだけれど省略バージョン(^^ゞ
京介の所にマーサも子供たちも一時預かって貰ってる脳内設定。