些細なことでジャックと口喧嘩になった。
本当に原因は大したことではなかった。
それが売り言葉に買い言葉で大喧嘩に発展してしまった。
殴り合いの喧嘩にまでならなかったのは、偏に居候・ブルーノのおかげだ。
ブルーノが、まさに殴り合いになりそうだったその瞬間、側にやって来て「暴力反対!」と叫んだのだった。
そのせいでブルーノはジャックに殴られていたが。
とんだトバッチリだ。悪いことをした、後で謝らなくては。
そうは思うものの今はまだムカついていてどうにもならない。
不貞腐れたジャックは出掛けて行ってしまった。
同じく仏頂面のクロウは遊星に珈琲を淹れて貰っている。
遊星はクロウを落ち付かせようと思っての親切心からだったのだろうが、マグカップの中の珈琲を見ていると、一杯3千円もする珈琲の件を思い出してさらにむかむかしてしまう。
「ったくジャックの野郎」
働かねえしニートだし元キングだし!
つい文句も言いたくなる。
「遊星がジャックの何処が好きなんかオレには全然わかんねえわ」
そんな言葉で締めくくられるはずだった愚痴は、遊星の質問で遮られた。
「オレも前からずっと聞いてみたかった」
言いながら遊星はクロウの向かいに座った。
「クロウは、鬼柳の何処が好きなんだ?」
「は?」
思わず聞き返す。
男同士で言うのもなんだが、遊星とジャックが付き合っているように、自分と鬼柳が付き合っているというのは、もうとっくに幼馴染達にバレている。
しかし遊星からそのことに関して何か言われることは初めてだ。
「確かに鬼柳はリーダーとして尊敬するところはあったが、一体何処が好きなんだ?」
遊星は身を乗り出してくる。
いつもなら流してくれるのに、ジャックの悪口をしつこく言ったのがカチンときたのだろうか。
べた惚れもいい処だ。
この調子ではクロウが答えるまで引かないだろう。
「何処って」
尊敬なんかしてねえし。
まあ確かにリーダーとしてカッコいいと思っていた時期もあったが、アレはただの馬鹿だ。
頭の回転は速いし、機転は効くし、頭が悪いということは無いのだろうが、アレはただの馬鹿だ。
喋るし騒ぐし、勝手なことばかりするし、放っておけば寂しがるし拗ねるし、暴走するし。
口を開けば駄目なところばかり並べてしまうが、自分で言うのは許せても、他人にアイツを悪く言われたら腹が立つであろうこともわかっている。
死ぬし生き返るし、死にたがるし。
今はようやく多少落ち付いたようだが、結局人間中身なんてそうそう変わるものでもないのだ。
全部まとめて『鬼柳京介』
何処が好きかと問われても返答のしようがない。
駄目な処も含めて、好きなのだ。
しかし『全部好き』だなんて、口が裂けても言いたくない。
本人にも言ってやるつもりはないが、遊星に言うのも何だか恥ずかしくて嫌だ。
べた惚れみたいじゃないか。
この聡明な幼馴染が多分全部お見通しだったとしても、だ。
どうやってこの場を切り抜けようか、考えた結果たどり着いた答えはひとつだった。
「・・・顔」
遊星はニッと笑って言った。
「奇遇だな」
「オレもジャックの顔が好きだ」
END
京クロでジャ遊
駄目なトコも含めて大好き
だけど一番好きなのは 顔 だ な
と言うことで意見の一致をみたクロたんと遊星たんでした(笑)