「遊星、明日あの馬鹿、用あってこっち来るって」
「そうか」
携帯を切るなり、そう告げてきたクロウに、遊星は頷いた。
嬉しそうなクロウに、此方も自然に笑顔になる。
「オレちっと買い物行ってくらあ」
ブラックバードに跨って出て行くクロウを、遊星は微笑ましく見送った。
鬼柳が来る時は必ずと言っていいほど泊まって行くから、夕飯がいつもよりほんの少しだけ豪華になる。
鬼柳の好きなモノが一品追加されていたりする。
何か食材を買い出しに行ったのだろう。
「・・・でも、『馬鹿』って言うんだよね」
多分遊星と同じように嬉しそうなクロウを微笑ましく見送って居た筈のブルーノが少し不満そうに言った。
「馬鹿?」
何の話かわからなくて聞き返す。
「クロウは鬼柳さんのことすぐ『馬鹿』って言うでしょ」
「ああ・・そうだな」
成程、そういえばそうだ。
クロウの口から『あの馬鹿』という言葉が出たらそれは十中八九、鬼柳個人のことを指している。
それが当たり前のようになっていたので、特別不思議にも思っていなかった。
しかしブルーノは其れが不服そうだ。
「鬼柳さんが来る時はあんなに嬉しそうなのに、なんで『馬鹿』って言うんだろう」
確かに鬼柳が来る時は、隠そうとはしているらしいが、明らかにクロウは嬉しそうだ。
事情をよく知らない筈のブルーノでさえ、クロウは鬼柳のことが大好きなのだな、とすぐにわかったのだろう。
それなのに『馬鹿』呼ばわりするのがどうしても解せないらしい。
遊星は少し考えて言った。
「本人に聞いてみたらいい」
「クロウはどうして鬼柳さんのことを『馬鹿』って言うの?」
根が素直で何でも口に出してしまう性分なブルーノは夕飯の席でそう切り出した。
ちなみに明日の夕飯が少し豪華になる予定の為、今日の夕食は明らかに一品減らされていた。
しかし誰も其れには言及しない。
「は?」
ブルーノが何を言い出したのか、とクロウは聞き返す。
『あの馬鹿』で話が通るから、そんな風に聞かれるなんて思っていなかったのだろう。
「だからさ、クロウはすぐ鬼柳さんのこと『あの馬鹿』って言うじゃない?何でかなって思って。鬼柳さんって本当に馬鹿なの?」
本当に馬鹿、と聞くのもちょっと失礼な話だが、ブルーノは本気で疑問に思っていたらしい。
「別にホントに馬鹿な訳じゃねえよ」
クロウは其処は速攻否定した。
しかしジャックが其れをまた否定する。
「馬鹿だろう、アイツは」
「お前は黙ってろよ」
ジャックを制しておいてクロウはブルーノに向き直る。
ブルーノは疑問に思ったことはとことん解決しようとする、自分が納得するまでは引かない、遊星と似たタイプだ。
其れをもうわかっているからこその対応だろう。
クロウは一生懸命説明を試みる。
「いやまあ確かに馬鹿なんだけど、頭はいいんだよ。頭の回転速いっつの?お前らほどメカに強いとかそういうんじゃねえんだけど・・んー・・でもやっぱ馬鹿なんだよな」
だんだん話の趣旨が違う方向へ行ってしまっている気がする。
鬼柳が馬鹿かどうか、ではなく、何故馬鹿と呼ぶのか、という話だった筈だ。
クロウも話がずれていることに気が付いてはいるのだろう。
修正しようとすればするほど話が遠くなっている気はするが。
「馬鹿だろうアイツは」
ジャックが時々茶々を淹れるので更に脱線する。
「うっせーよ、てめえは黙ってろっつーてるだろうが。大体馬鹿っつーたらてめえだってそんな差はねえよ」
「なんだと貴様!」
「ああ、そうか!!」
今にも本気の喧嘩になりそうな雰囲気を、のんびりとしたブルーノの声が壊した。
「『馬鹿』って言うのはクロウだけが呼んでいい『渾名』みたいなものなんだね!」
ぽん、と手を打ったブルーノに答えて遊星は言った。
「クロウが鬼柳を『馬鹿』と呼ぶのは親愛の表現だとオレは思う」
なるほど、とブルーノは大きく頷いた。
「愛情の照れ隠しって奴なんだね!」
「クロウ、照れ屋さんだものね。本当は大好きだけどつい悪口言っちゃうんだよね」
納得したとばかりに何度無ブルーノは頷いた。
遊星も其れに大きく頷いて賛同する。
「ちっげえよ!」
クロウは怒鳴ったが、チーム5dsのメカ担当2人は問題は解決した、とばかりに食事に戻ってしまった。
END
京クロ
クロたんが「あの馬鹿」言ったらそれは当然京介のこと
と皆が了解しているという(笑)
ブルーノちゃんをいっぱい出したほのぼの京クロが書きたかったんだよぉ。