風が唸っている。
この音が小さい頃は嫌いだった。
誰かが自分を怒っているような気がして、怖くて仕方なかった。
実際このマーサハウスに来る前は身体の小さな自分を邪魔だと怒って追い払う大人は沢山居たし、殴られたりもした。
そのせいもあるのか、特に夜は風の音が怖くて眠れない。
そんな時、クロウはよく遊星のベッドに潜り込んだものだった。
遊星も起きていて、クロウを優しく迎えてくれた。
だから遊星も風の音が怖いのだと思っていた。
この大きな音が誰かが怒っているかのように聞こえるのだと。
ある風の強い夜、いつものように遊星のベッドに潜り込んだクロウは、聞いてみた。
「遊星も風の音、怖いの?」
遊星は小さく頷いた。
「誰かが呪いをかけにくる気がする」
「のろい?」
自分には大人が怒っているように聞こえるあの大きな音が、遊星には呪詛に聞こえるのだという。
お前のせいだ、お前も死ねばいいと叫んでいるように聞こえるのだと言う。
当時は遊星が何故そんなことを言うのかわからなかった。
遊星はいつでも優しくて自分と仲良くしてくれる大事な友達だった。
こんなに優しい遊星に、呪いをかけに来るやつなんて居る訳がない。
それでも遊星は聞こえるのだと言う。
「呪いなんて聞こえないよ、遊星」
クロウは自分の手で、遊星の耳を塞いでやった。
遊星は吃驚したようだが、やがて笑った。
「・・・くすぐったい、クロウ」
遊星が笑ってくれたことにホッとした。
「じゃあオレも、クロウが怒ってる声が聞こえないように」
遊星はそう言ってクロウの耳を塞いでくれた。
くすぐったい。
二人で耳を塞ぎあって、くすくす笑いながら眠りに付いた。
もう風の音なんて怖くなかった。
*
昔のことを思い出して居たら隣に鬼柳がやってきた。
同じように窓から外を見て言う。
「すげえ風だな」
「そうだな」
夕方から強風になって、此処にたどり着くのも一苦労だった。
この辺は風が吹くと砂埃が酷い上に、今日は向かい風で視界も最悪だった。
そのまま流れで泊まって行くことになったのだが、風の音がどうにも気になってしまう。
「昔はこの音が怖かったこともあったけどな」
小さい頃と違って、今はその音が怖いなんてことはない。
ただ、遊星が何故呪いをかけに来ると言ったのか、今はわかるから。
「オレはちょっと怖いかな」
山の方を見て、鬼柳は言った。
「いろいろ思い出す」
昼間忙しく働いている間は忘れて居られる事が、この音と共に溢れてくる気がする、と鬼柳は言う。
「お前は、頑張ってるよ」
偉いよ。
普段は褒めたりしないけれど、こう言う時はちゃんと言葉に出した方がいい、とクロウは知っている。
生きている人間の方が死んでしまった人間よりよっぽど強い。
後悔しながら生きるよりも、もう二度と後悔しない為にどうしたらいいか、その為に努力した方がよっぽどいい。
鬼柳も、遊星もちゃんと頑張っている。
だから。
「それでも呪いが聞こえるならオレが耳を塞いでやる」
腕を伸ばして耳を塞ぐと鬼柳は笑った。
「くすぐってえ」
鬼柳が笑ったので、クロウも笑って見せた。
END
京クロ
ショタ遊星たんとショタクロたん
町長弱音を吐くの巻
たまに弱気になっても
オレが付いてる大丈夫って。
最初はジャ遊を書くつもりだったのですが
何処で間違った。