■「おかえり」(京クロ)■

京クロ
全部終わって帰って来た後











 


ただ同じ音ばかりを繰り返す携帯を切り、もう一度リダイアルを押す。
留守番電話サービスにさえ繋がりもしない。
もちろんDホイールの通信だって試してみたが駄目だった。
京介はイライラともう一度同じ作業を繰り返した。
大会の最後までは何とか映像が此方にも届いた。
かなり荒い、雑音の多い中継だったが、チーム・5dsの勝利で終わったのは確認出来た。
問題はその後だ。
何かあったのは確かなのだ。
シティに非常事態宣言が発動された、というニュースを最後にテレビもラジオも何も言わなくなってしまった。
また面倒なことが起こったのだ。
そうして確実にあの連中は其れに巻き込まれている。
チーム・ニューワールドに勝たないと、アーククレイドルという空中に浮かぶ巨大な島が出現して落ちてくるのだという。
以前にクロウが言っていた言葉を思い出す。
チーム・5dsの勝利、しかしその後何かイレギュラーな出来事が起こったのではないか。
勝てば落ちてこない筈だった、その巨大な島が落下したのではないか。
何十回目かのコールの後、また駄目かと携帯を切ろうとした瞬間、声が聞こえた。
『鬼柳?』
「っ、クロウ!」
思わず叫んでしまった。
「無事か?!シティに非常事態宣言が出たって・・大丈夫なのか」
『あーうん。でも全部終わった!皆元気だぜ。ブルーノも戻ってきたし』
元気そうなその声に、大きく息を吐く。
無事でよかった。
「また何か面倒事に巻き込まれてたんだな」
心配した、と声に滲ませてやると、クロウは言った。
『わりかったって。落ちてくるまで時間無かったし、遊星は一人で行こうとするし、モーメントは動かねえし、連絡する暇も無かったんだよ』
自分の予想はそう外れてはいなかったらしい。
クロウの言葉から京介はそう確信した。
アーククレイドルとかいう島がシティに落ちそうになったのだ。
まあそれでも、ちゃんと元気に皆帰って来たのならよかった。
ようやくホッとして息を吐き出すと、携帯の向こうでクロウが言った。
『っつーわけで此れからそっち行くから』
「は?!」
此れから、というクロウの言葉に思わず問い返す。
今まで連絡がつかなかったくらいだ、何もかも終わったのはついさっきと言ったところなのではないだろうか。
「いやお前、疲れてんじゃないのか?」
元気そうな声で話すクロウは、そう疲れているようにも聞こえない。
その声は、ちょっとそこまで、くらいのノリでアーククレイドルに出掛けて行って、シティを救いました、というカンジの軽さだ。
それでも、そんな未知の島まで行って帰ってきたのだから、其れなりに疲労している筈だ。
そう言うとクロウは笑った。




『だってオレ、帰ってきたら絶対お前の顔見に行くって決めてたからな』




帰って、きたら。
もしかして戻ってこれないかもしれない、とか、負けてしまうかもしれない、とか。
そんなことを考えなかったんだろうか。

死地へ赴くのに帰った後のことだけ考えているなんて、クロウらしい。
何時だって前向きで、後悔ばかりで先に進まないことを良しとしない。




『これでも一応、何も言わないであっち行ったこと悪ィと思ってんだぜ。だから帰ってきたらお前の顔見てあったこと全部報告するって決めてた』
決めていた、ときっぱり告げるクロウに、京介は少し笑った。
此れは何を言っても意志を曲げそうもない。
「わかった、気を付けて来いよ」
『おー』
元気な声を残して携帯は切れた。
クロウだって戦ってる最中は気弱になったりしたかもしれない。
それでも、帰ったら会いに行く、というクロウ自身が決めた約束が、クロウの力になったのだとしたら、少しでも自分が此処にいることがクロウの力になれたのだとしたら。
こんな嬉しい事があるだろうか。


とりあえずクロウがやってきたら、「おかえり」と言って。
それから、想いを込めてぎゅうと抱き締めてやらなければ。






END

 



京クロ
帰ってきた後捏造。
帰ってきたらまず京介に会いに行って欲しいなぁと思って。
「おかえり」は言ってあげて欲しいです。

ブルーノも戻ってきた、とかいう件は願望っす。
戻ってきてくれたら嬉しいのになぁ。






2011.03.06

 

 

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