「おう、どうした遊星」
『鬼柳、久しぶりだな』
電話の向こうで文字通り久しぶりの声が言う。
向こうも大会参加に向けて忙しいのは知っていたので、此処の所連絡を入れていなかった。
勿論愛しい恋人とも随分会っていない。
声だけでも聞きたいから後で遊星に頼んで変わって貰おう、などと思っていると遊星が用件を切り出した。
『突然だが、そちらで何か不足してる物資は無いか』
「えっ?いや別に無いけど…」
唐突な用件に面食らう。
有ったら何としてでも宅配業を営む可愛いハニーに持ってきてもらう所なのだが。
そう思っていると遊星はいつもの冷静な声で続けた。
『そうか。じゃあ必要な物を今すぐ何かこじつけてくれ』
「えっ、こじつけるって何だよ其れ」
無茶苦茶である。
そんな別に要りもしないモノをわざわざ持ってきてもらう訳にはいかないではないか。
シティから荷物の宅配を頼むとなれば、当然それはクロウに持ってきてもらうことになるだろう。
シティとこの街は其れなりに距離があって、行って帰るだけでも丸一日かかる。
その上道は舗装もされていない砂利と砂埃だらけのお世辞にも走り易いとは言えない道だ。
そんな道をDホイールに乗ってやってくるのは結構大変だと思う。
勿論クロウには会いたい。
会ってあの元気な笑顔に癒されたり、その髪に触れたり、当然其れ以上だってしたい。
でも出来れば可愛いクロウに負担をかけたくないのだ。
大事な大会もあることだし。
遊星だって幼馴染にそう思っている筈だ。
問いただすと遊星は言った。
『七夕だからだ』
遊星の言葉は何時も簡潔で、簡潔すぎて残念ながらわかりずらい。
七夕だと何故無理やりにでもクロウに荷物を宅配せよなんて言わなきゃならんのか。
「七夕と宅配とどういう因果関係な訳だよ。もう少しわかり易く頼む」
『すまない』
自分でも言葉が足らなかったと気が付いたのだろう。
遊星は短く謝罪した後続けた。
『七夕は、働かないので引き離された織姫と彦星が一年に一度会える日だと言われている』
あー、そんな話聞いたことある気がする。
一年に一度だけ会える恋人同士っていうとなんかロマンチックだが、ようするに怠け者だったから罰を与えられたってことなんだよな。
『ブルーノがクロウはとても働き者なのに七夕にも恋人に会えないなんて可哀相だねと何度も言うので…オレもそう思って』
ブルーノというのは一緒に暮らしている居候だそうだ。
その名はクロウの口からも聞いた事がある。
図体は大きいのに所謂草食系男子というか、大人しい性質の男で、そのくせ何処かすっとぼけたところがあり、余計なことを言ってはジャックに殴られていると言う。
そのブルーノにもクロウの恋人はオトコですってバレてる訳だ…。
ばれているなどとクロウが知ったら顔から火を噴いて暴れそうである。
まあとにかくクロウに会う口実を作れということらしい。
とりあえず会ったことも無いブルーノとかいう男に感謝しておく。勿論遊星にも。
ありがとう!
「わかった、なんか考えとく」
『頼む』
遊星はそう言って少し笑うと通信を切った。
クロウの為に色々考えてわざわざ連絡くれたのだろう。
愛されてるなあオレのクロウは。
さて何を配達して貰おうか。
可愛いオレのオレンジ烏を七夕の夜に時間指定で宅配お願いします、とか言ったらクロウはやっぱり赤くなって怒りそうだけど。
END
京クロ
ポッポタイムから満足街へ宅配依頼
鉄砲玉一人お願いします。