全部忘れてしまおうと思っていた。
ダークシグナーになってからというもの、どうにも物忘れが酷くなった。
昔の記憶が少しづつ消えて、闇に飲まれていっている、そんな感覚。
ダークシグナーというのはようするに死人だ。
恨みだけで動く死人。
だからもう年を取ることも無いと言うのに、年寄りみたいな感想を抱いている、と鬼柳は思った。
昔あった出来事の何もかもがあやふやで確かなものが何もない。
それが鬼柳を不安にさせた。
遊星を、シグナーを恨んでいれば其れでいい。
倒すことだけを考えていればいい。
それだけ覚えていれば他の記憶など何も要らない。
誰かと、笑いあった記憶など。
そんなモノ捨ててしまえばいい。
地の底から、暗い影の中から、そんな声が常に聞こえてくる。
自分が最後に欲した望みは、本当にそんなことだったろうか。
それさえも曖昧だ。
やがて面倒臭くなって鬼柳は思考を諦めた。
シグナーを倒すことだけ考えていれば動けるのだったら、何もかも忘れてしまえばいい。
「鬼柳、京介」
クロウの声が名を呼ぶ。
ああ、覚えていてくれたのか。
自分は忘れようとしていたくせに。
忘れられたくなかったなど虫のいい話だ。
*
鬼柳が牢獄の中で死んだ、と聞かされた時、まず嘘だと思った。
だってアイツが死ぬはずがない。
アイツはオレ達のリーダーで、ちょっと馬鹿だけどデュエルも強くって、何でも出来た。
オレの、オレ達の救世主。
だからって不死身って訳じゃないんだから絶対死なないとは言い切れないのに。
それでもアイツは死ぬわけがないって本気で思っていた。
今ならわかる、人間なんて本当に簡単に死んでしまう。
サテライトで生きてきて、そんなこと当に知っていた筈なのに、アイツだけは死んだりしないって思っていたなんて、馬鹿じゃないのか、オレ。
本当に神様か何かだと思っていたみたいだ。
自分の理想を押し付けて、其れと違う行動を取ったからって離れて、結局アイツはセキュリティに捕まって、死んだ。
仲間なんだから、もっと話して解り合う道もあった筈なのに。
アイツは普通の、3歳年上なだけの男だったのに。
アイツが此処に居ないのがまるで自分のせいのように思えて、オレは考えるのを止めた。
全部忘れてしまおうと思った。
「オレのことを忘れたのか」
フードを取った顔は、確かに鬼柳だった。
生きていた、のか。
忘れようとしていたくせに。
本当は忘れたくなかったなんて、…今更。
END
京クロ
忘れられたくなかった京介と
忘れられなかったクロたん。
「クロウも一緒か」に繋がるカード投げるトコ
カードを遊星に向かって投げたんだと思い込んでたんですけど
アレ完璧にクロたん狙ってたのね!!!!!
と再放送を見て気がつきました。
京クロ始まってた!!!←
まだまだ京クロが好きです。