■お揃い(京クロ)■ 現ぱろ・京クロようやくお引っ越し話です。 今までの話はこちら >一緒に暮らそう
部屋の中は意外なほど片付いていた。
片付いている、というのとは少し違うかもしれない。 其処には生活感がまるでなかった。 引っ越し先も決まって、クロウは着々と準備を進めているというのに、京介はまったく自分の部屋に戻らない。 「お前、少しは荷物纏めてんのかよ?」 「あ、大丈夫大丈夫。オレ、服くらいしかねえし」 へらり、と笑って京介は言った。 「服くらいったって、結構あるんじゃねえの?」 「そーでもねーって。だいたい此処に持ってきてたし」 平気平気、と安請け合いする京介に痺れを切らして、ボマーと休みを代わって貰って、この部屋にやってきたのだ。 家具付きの部屋を借りていることは知っていた。 だから、京介の言い分も強ち嘘ではないこともわかっていた。 しかし、いくら家具付きとは言っても、其処で暮らすとなれば、細かいものを買い足したり、何処か住んでいる人間の匂いがするものだ。 だけど、本当に何もない部屋だった。 冷蔵庫を開けてみても、空っぽだ。 いくらほとんどクロウの部屋に入り浸っていたとは言っても、マヨネーズとか、ケチャップとか、調味料のひとつくらい入っていても良さそうなものだ、と思う。 箸も皿も、マグカップのひとつも無い部屋は、何処かおかしい。 クロウの部屋に持ち込んだ自分の物を仕舞いもしない奴なのに。 僅かばかりの服を持参した段ボール箱に詰めながら、クロウは言った。 「本当に何もねえ部屋だな。本もCDもDVDすらねえし」 「無い方がいいじゃん」 へらり、と笑って京介は言った。 「オレが死んだら、片付けすんのが楽だろ」 いつもの調子で、いつものように。 クロウは持っていた服を、京介に向かって投げてやった。 「わ・・っと」 箱に詰めるために置いてあった服を、次々に全部、ぶつけてやる。 服なんてぶつけられたって痛くもないだろう。 それでもあるだけ全部投げた。 「ちょ、クロウ、やめ」 「うっせ―馬鹿!」 投げるものが無くなって、詰めていた段ボールも投げてやろうと持ち上げると、京介の腕に捕まえられた。 「待てって」 どうあってもその腕を振りほどけなくて、うー、と唸る。 投げる気が無くなった段ボール箱を、京介が取り上げて床に置く。 「・・そういうこと言う奴、キライだ」 「・・・うん、ごめん。今は思ってない。そんなこと全然」 ごめん、と繰り返し謝りながら、京介はそっとクロウを引き寄せた。 引き寄せられるまま、大人しくその胸に収まってやる。 「絶対クロウより長生きする。オレが死んだらクロウ泣いちゃうもんな」 「泣かねえよ馬鹿」 顔を上げずにクロウは言った。 誰が泣いてなんかやるもんか。 クロウの髪を撫でていた京介が訊く。 「・・ねえ、クロウ、キスしていい?」 「ふざけんな、馬鹿野郎」 「じゃあもう少しこうしててもいい?」 返事の代わりに、服を握る手に力を込めてやった。 隣の部屋や、大家に挨拶を済まして、コンビニの小分け蕎麦を引っ越し蕎麦代わりに啜る。 段ボールが散乱して酷い有様だが、まあぼちぼち片付けていくしかない。 「明日は遊星が手伝いに来てくれるってさ」 「へえ、ジャックは?」 遊星が来るのなら、ジャックもひっついて来るに違いない、と言うのがすでに京介の中ではデフォになっているらしい。 確かにそうなのだが、クロウは首を振った。 「仕事。取材入ってるんだってよ」 遊星は途中で抜けてくる気満々らしい。 遊星は喋りが達者な方ではないし、そういうことは基本ジャック担当になっても仕方があるまい。 というか、さりげなく押し付けている、と言うべきか。 尤も本人達がそれで納得しているのだから、特に問題はない。 「まあジャック来ても、こゆ時役立たねえしな」 クロウは幼馴染が聞いたらまた大騒ぎしそうなことをさらりと言った。 「そだ。ジャックからって貰ったんだった」 蕎麦の容器を近くの段ボール箱に乗せて、クロウはポケットを探った。 「何?」 寄って来た京介の手のひらに、ちゃらりと其れを乗せてやる。 キーホルダーが付けられた、鍵。 「これ、」 「ツアーの非売品グッズだってさ」 クロウも自分のキーホルダーを出して揺らして見せる。 色違いの、同じキーホルダー。 同じ部屋の鍵が付いてる。 「にやにやすんな、気持ちわりぃ」 本当に嬉しそうに京介が笑うのが照れくさくて、クロウは少し乱暴にそう言ってやった。 END 現ぱろ・京クロ お引っ越ししました。 合鍵くれなかったクロたんがカギをくれたよ、おそろだよ!という話。 そろそろ本気で脳内設定が色濃くなってきた感じがします; どうなのこれ・・ その辺が引っ越し話を書くのを先延ばしにしてた理由なんですけども; 京介はやっぱあんま愛されないで育ったイメージがあるのよね・・ そゆの嫌な人はホントにごめんなさいです。 でもまだまだ続きます。 大丈夫な方だけお付き合いくださいませ。
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