■染めてやる(京クロ)■


駄目社会人京介×保育士クロたんのシリーズ
マーサに京介を紹介するために連れてきました







今までの話はこちら
>愛の奇跡




「んじゃ、オレ出掛けるけど」
玄関先でクロウが言った。
わかってる。
昨日の夜から、明日は午後から出掛けるからと、それはそれは何度も繰り返し言われたし、だから一回で我慢したんだし。
せっかく久しぶりに休みが重なった土曜日、ベッドの中で一緒にのんびりぐだぐだしたかったけど仕方ない。
出掛けられないほどイタシてしまったら、一週間は確実に口きいて貰えないしな。
しかし、正直一人の休みほどつまらないものはない。
クロウが出掛けたら不貞寝してしまおう。
「うん」
表面上は愛想良く、行ってらっしゃいと続けようとして、クロウの言葉に慌てて立ち上がる。
「付いてきてもつまんねーかも知れねえけど、お前も一緒に来るか?」
「・・・行くっ!!」



休みの日に時々何処かへ行っているのは知っていたけれど、誘って貰ったのは初めてだった。
電車を乗り継いで、やってきた其処は古い教会の様な建物が建っていた。
しかし入り口に掲げられた標識を見れば、教会で無いことは一目瞭然だった。
クロウから、施設で育った、と言う話は聞いていた。
詳しいことは聞いていないけれど、多分此処がその施設なのだろう。
門を潜ると、庭に居た子供の一人がすぐにこちらに気が付いた。
「クロウ兄ちゃんだ!」
その声に他の子供たちもわらわらと集まってくる。
「クロウ兄ちゃん!」
「ピアノ弾いてー」
「今日誰から?」
「ねえ、此処のトコ上手く弾けないのクロウ兄ちゃん」
「わかったわかった、順番な」
ぐるりと取り囲んで口々に訴える子供たちの頭を撫でてやりながら、クロウはそう言うが、なかなかその場は収まらない。
其処へ、パンパン、と手を打つ音がした。
「ほら、アンタたち、皆でわあわあ言ったらクロウだって困るだろ。順番だよ順番」
「はあーい」
建物から出てきた、女性の声に、子供たちは大きな返事をして、ようやくクロウから離れる。
幾つくらいだろう、40代〜50代前半と言ったところだろうか。
肌の色は浅黒く、髪も黒く縮れている。
女性はクロウを見て、ニッと笑った。
こういう笑い方、何処かで見たことがある。
すぐにそれは目の前のクロウの笑い方だと気が付いた。
女性はクロウに向かって手を広げた。
「おかえり、クロウ」
「ただいまマーサ」
ぎゅう、とハグして背中を叩く。
其れから此方に気が付いたようだった。
「おや、其方は?」
「ああ、」
クロウが返事をする前に、マーサと呼ばれた女性はわかった!とでも言う様にパン、と手を打った。
「ああこれが噂の『鬼柳京介』さんだね!まあ、話に聞いた通り、イイ男じゃないか」
バンバン背中を叩かれて困惑する。
「はあ・・どうも」
顔だけはいいんだよコイツ、と言いながらクロウはマーサを京介に紹介した。


「こっちはマーサ、ウチの母ちゃんだ」


ウチの母ちゃん。

その言葉に、特に驚きはなかった。
ああ、そうか、と納得しただけ。
すとん、と納得できるほど、雰囲気が似ていたから。


クロウは此処で子供たちにピアノを教えているのだそうだ。
「じゃあ今日はココロからな。こないだのトコ出来るようになったか?」
「うん!」
「よっし確認するぞ」
教会の様な建物の方へ歩いて行く。
アチラにピアノが置いてあるらしい。
さて、そのピアノ教室に付いて行くべきか、付いて行っていいものか、京介は少し迷った。
そのほんの少しの間に、タイミングを失って、其処に取り残される。
「母ちゃん、なんて言うから吃驚したろ」
マーサはそう言って声を上げて明るく笑う。
「全然似てないからね」
確かに容姿は全く似ていない。
クロウの髪は明るいオレンジだし、目の色は灰青だ。
だけど。
「いえ、そっくりですよ」
笑い方が。
そう言うと、マーサはニッカリと笑った。
「クロウが教えてる間、暇だろ?」
ああ此れは、クロウがなんか企んでる時の笑い方だ。
「ウサギ小屋の屋根が壊れちゃってねぇ。此処は男手が少ないし、困ってるんだよ。頼まれてくれないかい?」
「・・ハイ」
いつの間に持ってきたのやら、金槌を握らされてしまっては、ハイと大人しく頷くことしか出来ないではないか。
この押しの強さも母親似だな、と思った。



慣れない大工仕事は少し手間取ったが、なんとか形になった。
割と頑丈な小屋の上で汗を拭い、ふう、と息を吐く。
気が付けば日は大分傾いていた。
ウサギは此処の子供たちで世話をしているのだと言う。
「・・ウサギは寂しいと死んじゃうんだっけか」
「いんや、そんなこともないらしいぜ。結構しぶとい」
立てかけておいた梯子から、顔を覗かせてクロウが言った。
「でも濡れるのには弱いんだと。ウサギは毛が乾きにくいから、病気になるらしい」
「へえ」
聞きかじりのウサギ豆知識に相槌を打つ。
ウサギの話なのか、此処の子供たちになぞらえているのか。
そんなことを考えていると、クロウが話題を変えた。
「・・・母ちゃん、なんて紹介して、吃驚したか?」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべてクロウが問う。
さっき、同じことをマーサにも言われたよ、と思いつつ、京介も同じような笑みを浮かべて答える。
「いや、そっくりだよ。人使い粗いトコとか」
「よくジャックと遊星にもそう言われるわ」
ケタケタとクロウは笑う。
「やっぱ一緒に暮らしてる時間長いと影響されて似ちまうのかな」
一緒に暮らしていると。
そうやって、ずっと一緒に居られたのなら。
「・・オレ達も、そうなるかな」
そう、なれるかな。
小さな声で吐き出された問いに、クロウはニヤリと笑った。


「おう、オレ色に染めてやんぜ」


その言い方が、なんともクロウらしくて笑う。
「夕飯食ってけ、っつーてくれてっからご馳走になって帰ろうぜ。まあ作る手伝いはさせられるんだけどよ」
そう言って笑うクロウの顔を、沈みだした太陽がオレンジ色にする。
「おう!」

元気に返事をした自分の顔も、きっとオレンジに染まっているのだろうと思った。






END


 




現ぱろ・京クロ
マーサに京介を紹介するために連れてきました
実母がやってた施設の子にボランティアでピアノを教えるってことをクロたんもやってます
ジャックと遊星たんも此処には顔を出すので
マーサは京介のコト話だけは知っていたのでした

オレ色に染めてやるって受の台詞じゃねえよってハナシですが(^^ゞ
まあクロたんのが漢前なので。




2010.07.25

 

>戻る