ぽつぽつと降り出した雨は、あっという間に本降りになった。
平日だが休みだったクロウは、部屋の窓から外を見上げる。
真っ暗な空はこのまま雨を降らせ続けるつもりらしい。
朝はいい天気だったから、京介は傘を持って行かなかった筈だ。
天気予報をチェックしておかなかったのは失敗だった。
クロウは携帯を取り出してメールを打った。
『帰り、いつもの時間か?』
京介の帰宅は余程忙しい時期でない限り、だいたい同じくらいの時間だ。
この時間なら電車に乗った頃だろうか。
すぐに返信があった。
『今電車の中。あと20分くらいで駅付く』
返事を受けて、クロウはまたメールする。
『改札出たとこで待ってろ』
返事を待たず、上着を引っ掛けて、傘を2本持つと家を出た。
改札を潜って傘を持ったクロウを見つけた京介は其れは其れは嬉しそうな顔をした。
想定内だ。
「ただいまクロウ」
「ん。おかえり」
大きい方の傘を突き出すと、それを受け取りながら京介は言った。
「相合傘してえ」
此れも予想の範囲内だ。
「ふざけんな。こんな人の多いトコで」
そう言うと、京介は手を上げて道の先を指した。
「じゃああの角曲がったら」
食いさがる京介を往なしてさっさと歩きだす。
相合傘に未練はあるようだが、京介はご機嫌だ。
土砂降りの雨と対照的に、鼻歌でも歌いそうな勢いで歩く。
そんなに迎えに来てくれたのが嬉しかったのだろうか。
「にやにやすんな。キモイ」
なんだか照れ臭くなってそう言う。
「だってクロウが優しいから」
嬉しくって、と京介は笑う。
そんなに嬉しそうに笑われると益々照れ臭い。
「優しくされると嬉しいよな」
そうか、よかったな。
そう返そうとしたクロウに、京介はふと思い出したように言った。
「昔は優しくされると怖かったけど」
「怖い?」
思わず聞き返す。
傘の向こう、まっすぐ前を見た京介は何でもないことのように言う。
笑っているけれど、綺麗なだけの笑顔。
此方を見ていない、クロウの嫌いな表情。
「見返りを要求されたり、いい人だと思ってたら突然裏切られたりするに違いないって思ってたんだな、多分」
優しい言葉をかけられるのが嫌で仕方なかった。
それは、自分にも覚えがある。
最初だけは優しい言葉、親戚たちの冷たい手。
怖くて、けれどどうしたらいいかもわからなかった。
「今は怖くない」
此方を見て、京介は笑った。
「優しくされたらその分もっと優しくすればいいんだって知ってる」
簡単なようで難しい、けれど。
笑う京介の目にちゃんと自分が映っている。
「ばあか」
クロウはでかい図体で甘えてくる京介を一つ小突いて置いて、角を曲った処で自分の傘を閉じた。
END
現ぱろ・京クロ
結局相合傘して帰る(^^ゞ
クロたんは京介を甘やかし過ぎだと思います。