「ワレワレハ・宇宙人ダ」
「宇宙人が『宇宙人』なんて名乗るかよ」
麦茶の入ったグラスを渡してやりながら突っ込みを入れる。
「そうだよなぁ」
扇風機に向かっていた京介はそう言ってけらけら笑った。
宇宙人側からしたら地球人の方が宇宙人、未知との遭遇だろう。
「でもほらお約束って奴だし」
麦茶を飲んで京介は言う。
扇風機を首振り設定にしてクロウも座った。
冷房がもともとあまり好きではないクロウの部屋には以前から使っていた古い扇風機があった。
節電にも一役買っている優れものである。
「何で扇風機の前に居ると『あ〜〜』とかやりたくなるんだろうな」
大抵の人間がやったことがある様に、クロウにもそれは覚えがある。
「やっぱ人間お約束が好きなんだよ」
「…そうか?」
「例えば黄門さまが印籠を取り出して『このお方をどなたと心得る!』ってやるのもうパターン化されてるだろ。やっぱアレが無いとね!って気分になるじゃん」
「まあな」
「あとお風呂シーンはなきゃダメだろ」
「無くてもいいだろ」
お色気シーン必須を力強く主張する京介を一蹴する。
「っつーかべたべたくっつくな。暑い」
夏は暑いのが当たり前だろ、と思っているが、扇風機の前で男二人、ぺったりくっついていたらさらに暑いに決まっている。
引き剥がそうとしたが余計に抱き込まれてしまった。
「暑いっての」
「せっかくクロウと一緒の休みなんだしもっとべたべたしたい…」
すりすりと顔を寄せてくる京介は本当に鬱陶しい。
平日だから本当は京介は休みではないのだ。
しかし大きな仕事を片付けて有給を貰えたのだ、と言って昨日の夜から上がり込んでいる。
此処の所忙しかったのは確かなようで、すっかり入り浸りと言っていい状態だったというのに、電話とメールだけでほとんどやって来なかった。
珍しく頑張って仕事していたのはわかるだけに此方の休みに合わせて有給貰えたとやってきた京介を無碍に扱うのも可哀相な気がする。
結局甘いのだ。
惚れた弱みだとはまだ認めたくない。
しかし暑いものは暑い。
「だいたい暑い時は暑いことした方がいいんだろ」
「んなこと言ってねえ」
扇風機使用に文句を言った京介に、暑いからと言って冷房ガンガンに効かせていたら外に出た時に温度差で具合悪くなるだろ、と以前言ったことは認める。
「一緒に汗かこうぜ」
「ふざけんな」
だいたい昨夜押しかけてきて、すでにヤっただろうが!とは怒鳴れない。
しかし京介は言いたいことを察知したようにくすくすと笑った。
「クロウ耳赤い」
オレはイヤラシイことなんか全然考えてませんよ、と京介は嘯く。
「一緒に風呂入ろうってつもりだったんだけどな。節電と節水になるってマツイカズヨも言ってたぞ」
男同士一緒に風呂なんて、裸の付き合いと思えば特に問題は無い。
普通だ。
しかしコイツが其れで済む訳は無い。
「クロウってばなに連想したんだ?」
クロウが黙っていると京介は言った。
「まあそっちも勿論するけどな!」
「ふざけんな!」
散々人のことをヤラシイヤラシイ言っておいてその態度はなんだ。
暴れるクロウを益々強く抱き込んで京介は言った。
「だってオレはお約束が好きな男だもん」
やっぱ一緒にお風呂っつーたら色々しなきゃだろ。
悪びれず宣言して京介はまた笑う。
結局この笑顔に流されてしまうのだ。
それが惚れた弱みだなんて絶対認めない。
END
現ぱろ・京クロ
クロたんは節約派なので
クーラーより扇風機
夏だもん暑いの当たり前だろとか言いそうな気がします。
京介はクーラーのが好きそうだがな。
惚れているのを認めたがらないが
立派にバカップルであることよ(^^ゞ