■出張(京クロ)■

京クロ・現ぱろ
京介出張になるの巻



今までのまとめ
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「ただいま〜クロウ」
「ただいまじゃねぇよ、てめえは」
玄関を開けると会社帰りの京介がべたりと引っ付いてきた。
「なんで『ただいま』なんだよ。オレんちだ此処は。てめえは自分ンち帰れ」
クロウの言い分はもっともで、此処はクロウのアパートである。
自分の借りている部屋がちゃんと有るにも関わらず、クロウの部屋へ帰ってくる京介は、思った通りクロウの文句なぞ聞き流して額にチュッと口付けた。
「ただいまのちゅう」
「ふざけんな」
今度は口に降りてこようとする顔をクロウは手で押さえた。
鼻を押さえられて京介がふが、と変な音を出す。
間違っても口を押さえてはいけないのだ。
この阿呆は手のひらを舐めてくるから。
「いいから早く手ぇ洗ってうがいして来い。飯出来てるから」
子供に言い聞かせるように洗面所へ追い払う。
京介は大人しくそれに従った。
「明日急に出張になった・・」
食事をしながらしょんぼりと京介が言う。
「は?出張?何処へ」
「京都一泊二日。行きたくねぇ。クロウに一日以上会えないなんて!」
「阿呆か」
駄々を捏ねる京介をバッサリ切って捨てる。
ひでえ!と京介は喚いた。
大手企業に勤める京介は仕事は出来る男であるはずなのだが、いろいろ駄目な社会人だ。
形は大きいが基本子供と一緒なのだ。
わあわあ騒ぐ京介を尻目にクロウはさっさと夕食を済ませると席を立った。
「お前皿洗っとけよ。仕度しといてやっから」
「んー」
「箸を咥えるな、箸を」
行儀の悪い京介をぺし、と叩いて、奥の六畳間へ入る。
と言っても1Kなので台所とその部屋しかないのだが。
小さめのボストンを引っ張り出して、京介の下着を詰める。
こんなモノまでこの部屋にあることに正直ウンザリした。
「何処泊まるんだ?ホテル?浴衣とかあんのか?」
「あると思うー」
洗い物中の京介に声をかけるとそう返事が返ってくる。
下着とタオルと歯磨きセットくらい入れておけば十分なようだ。
まあ一泊だし、たいていの物は現地で足りるだろう。
ボストンのチャックを閉めていると、後ろから京介が張り付いてきた。
「クロウ・・」
耳元に唇を寄せてくる京介の鼻をクロウはぴしゃり、と引っ叩いた。
「明日何時なんだよ?」
「・・・朝七時の新幹線」
鼻を押さえられたまま、京介がもがもが答える。
クロウは言った。
「早く寝ろ」
この部屋は最寄り駅からも遠い上に、新幹線の停まる駅まではさらに遠いのだ。
ただし家賃は安い。
京介のためにはよ寝ろと言っているのに、案の定この図体のでかい子供は不満の声をあげる。
「ええー!!一日以上会えないんだからせめて一発ヤらせてよ!!」
・・・言ってることは子供とは遠かったが。
クロウは一発ぐーでボカリと頭を殴って、京介を黙らせた。
「早く風呂入って寝ろ」
にっこりいい笑顔で宣言してやる。
「夜、オレに触ってきたら二度とウチへ入れねぇからな」




子供たちが寝付いて、クロウはやっと一息ついた。
遅めの昼食兼、休憩の時間だ。
子供たちが昼寝をしている、とは言っても目を離すことは出来ないから、交代での休憩だ。
朝は結局バタバタして弁当を作る間もなかったので、コンビニでサンドウィッチを買ってきた。
子供たちの居る部屋とは別の小さな休憩室で、ややパサ付いた其れを齧る。
ふと携帯が着信を告げて光っているのに気が付いた。
メール。京介だ。
そう言えば、昼に電話していいか、などと言っていた。
電話しても休憩は交代で取ってるから、出れるかわかんねぇ、つか出ねぇからメールにしろ、と言い放ったら、クロウ返事短けえんだもん!とぶー垂れていたが、結局諦めてメールにしたらしい。
食べかけのパンを口に押し込んでメールを開く。
今昼飯食ってるとか、こっちは天気いいとか、世間話かよと思うようなくだらないことが長々と書かれていた。
ほとんど毎日顔を合わせてる間柄だというのに。
「なんだこりゃ。真面目に仕事してんのかあの馬鹿」
思わず、笑ってしまう。
クロウは壁に掛けられている時計を見た。
まだ自分の休憩時間は残っている。
メールの着信時間を見るに、京介の方も、遅い昼食だったようだ。
メモリを探して、滅多にかけない京介の番号へとコールする。
ワンコールするかしないかで、京介が出た。
『クロウ?!』
「っ・・怒鳴るな馬鹿」
『ご、ごめん・・電話くれるとは思わなかったから』
「丁度休憩時間だったから。そっち今大丈夫なのか?」
『うん、あと20分くらいは平気』
一応仕事はしているようだ。
「昼何食べたんだよ?
そば?
美味かったけど汁が薄いって・・そりゃ上品てゆーんだよ。
ああ?・・馬鹿じゃねーのお前」
京介が、クロウの作ったご飯の方が美味しいなどと素で言う。
大真面目だから此方が恥ずかしい。
つい口調が乱暴になる。
「土産ちゃんと買ってこいよなー。
オレ八つ橋がいい。固くない方。
え?
ああうん・・まあワンタンに似てるかもしれないけど・・
変な例えすんなよ。
・・ワンタン買ってきたらウチ入れねぇ」
慌てる京介の声と子供の声が重なった。
「クロウにいちゃん?」
子供の一人が目が覚めてしまったようで、ドアの所からこちらを見ていた。
「な、なんだ?トイレか?」
立ち上がりながら話しかける。
「わり、子供が起きてきたからもう切るわ」
電話の向こうの京介にそう告げて、切ろうとする。
子供がクロウを見上げて訊ねた。
「だれとおはなししてたの?」
「ええと・・・友達?」
「ふうん・・・」
納得していないようで子供はさらに言う。


「トモダチっていってごまかすときはたいていコイビトだって」


クロウは絶句した。
このマセ餓鬼。
「何処でそんなん覚えてくるんだよ?!」
テレビか親か大人の会話か。
子供は意外にいろんな所から情報を得ているものである。
「クロウにいちゃんあかくなった!」
きゃあきゃあとはしゃぐ子供を片手で捕まえて、まったく侮れない、とため息をつく。
『クロウ』
切りそこなった携帯の向こうで京介が言った。
『沢山土産買って帰るからな!』
「いらねーよ!何個買って来る気だ!」
思わず怒鳴る。
しかしさっさと切られてしまって、クロウの言葉は京介には届かなかった。
クロウは今度こそ大きなため息をついた。
「だいじょうぶ?」
「ああ、平気だ」
ため息に心配して覗き込んでくる子供の頭を撫でてやる。


まったく、あの馬鹿ときたら。


明日には言ったとおり山ほど土産を持って帰ってくるのだろう。
『ただいま』と、クロウの部屋に、満面の笑みで。
容易にその様子が想像できる。



『おかえり』と言ってやるしかないな、とクロウは思った。




END




駄目社会人×保育士
調子こいてまた書きました;

続きものにする気はないのですが
あと同居することにしました、とか
それをジャ遊夫婦に報告しました、とか
そんな話は書きたいです(^^ゞ

ボマさんはクロウたんの同僚にしようかなぁ・・
って出てくる話を書けるかどうか;





2009.04.19

 

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