■惚れた弱み(京クロ)■ 京クロ・現ぱろ まだ合鍵はない。
帰って来ると扉の前に京介が座り込んでいた。
此方に気が付いて、ひらひらと手を振ってみせる。 「おかえりクロウ」 「おう」 返事をしながら部屋の鍵を開ける。 「ねえホント合鍵くれよクロウ」 部屋に入るクロウの後ろから付いてきた京介が、背中から甘えた声で強請る。 「ふざけんな」 クロウはぴしゃりと言った。 何度も何度も強請られてきたけれども、今日もクロウの返事は変わらない。 「ええーひでえ!!今日超待ったのに!お腹空いた!オレ可哀相!!」 京介はぎゃあぎゃあ大袈裟に騒いだ。 確かに今日は仕事が長引いて帰りが遅くなってしまった。 その間腹を減らしてドアの前で待っていたのだ、と思うと少し可哀相な気もする。 だが。 「鍵渡したらお前もっとウチ入り浸るだろが。つか来るならメールくらい寄こせっつの」 「だってクロウ返事短けえんだもん」 ブチブチと文句を垂れる京介を置いて、さっさと手洗いうがいを済ませる。 それから京介も手洗いうがいをさせるために洗面所に追いやった。 こういうことをしていると仕事先の子供たちと大差ない気がしてくる。 相手は一応立派な社会人であるというのに。 さてそれよりも問題は今日の夕飯だ。 遅くなったため買い物も出来なかった。 腹減ってる大きな子供のために手早く作らなければならない。 ちょっと遠回りすれば大型チェーン店があるのだが、もしかしたら京介が待っているかもしれないと思ったため、帰りを急ぐことを選んだのだ。 そんなことを言ってやるつもりはないが。 冷蔵庫には豚肉と僅かな野菜しか入っていない。 だが、クロウにはこの間遊星から教わった秘密兵器があった。 奥の部屋からノートパソコンを台所まで持ってくる。 検索するとすぐにヒットした。 其れを見ながら調理を開始する。 洗面所から戻ってきた京介がパソコンを覗きこんだ。 「なに、これ?お料理サイト?」 「簡単レシピ投稿サイト。遊星に教わったんだけどよ」 この間、休みのときに遊星の処へ遊びに行ったのだ。 その際、なんかいっつも同じもん作ってる気がする、と言ったらばこのサイトを教えてくれた。 かなり稼いでいる筈の遊星は、あまり贅沢は好きでは無い。 しかし、遊星の興味は食事や料理にはあまり向いていない。 ジャックが叱らないと、栄養バランス食やゼリー飲料で済ませてしまうタイプだった。 それが最近は簡単なものなら自分で作るという。 凝り性ではあるから、ハマればトコトン、なのだろう。 其処でこのサイトが活躍するというわけだ。 遊星の手作り料理とあれば、外食や高級食材が好きなジャックも否を唱えない。 簡単に作れるという点で大変人気のあるサイトだそうだ。 実際使ってみるのは初めてだったが、確かに数分で簡単におかずが完成した。 ご飯は炊いて冷凍してあった奴を解凍すればいい。 「うん、いいな此れ。便利だわ」 「へー美味そう〜」 さすが遊星、と何もかも遊星の手柄であるかのように褒めるクロウの横で、京介も感嘆の声を洩らす。 「いっただきます」 「あ、ちょっと待った!」 早速食べようとした京介をクロウが止めた。 何事か、と箸を持つ手を止めた京介の前でクロウが携帯を構える。 「写メ?」 「なんか写メって、作ってみたって送るのがレシピを作った人に対する礼儀らしいぜ」 此れも遊星の受け売りだ。 クロウはサイトをクリックして、そのページを表示してみせた。 同じような料理の並ぶそのページには、美味しかった、簡単に出来た、などの感謝の言葉が綴られている。 「へー・・・遊星も写メってんの?」 「いんや、遊星はもっと本格的に一眼レフで撮ってた」 贅沢は好きではない遊星だが、機械系には目が無い。 というか、カメラはジャックが買い与えたものらしいが。 遊星も大概ジャックに甘いが、ジャックもまた然りだ。 「凝ると徹底的にやる奴だからな」 写真を撮るために、ジャックを散々待たせていたのを思い出す。 料理を前になかなか食べられないのも気の毒な話だ。 其れもこれも惚れた弱みという奴か。 眼の前では京介が箸を咥えて「食べていい?」と小首を傾げている。 クロウは写真をさっさと携帯に保存すると、パソコンを閉じて自分も席についた。 感謝の言葉は後で述べればいい。 揃って食べ始めながら、行儀の悪い京介を叱っておくのは忘れなかった。 END 現ぱろ・京クロ 実は結構クロたんも京介に甘い。 でもまだ合鍵は渡してない(笑) 料理投稿サイトっつーのはくっくぱっどです。
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