■やきもち(牛遊)■
牛遊+クロウたん
冷蔵庫の中に何も入っていないことを思い出して、買い物をして帰ることにした。
仕事も忙しいし、そんなこともあるが、スーパー備え付けの買い物かごを抱えて侘しい気分になる。 食品の並んだ棚の前をゆっくり歩きながら、さて何を作ろうか、と考えた。 男の一人暮らし、自分だけの為にわざわざ作るのも面倒くさい気もする。 いっそ出来合いのもので済ませてしまおうか。 しかし給料が出たばかりなのだから、少しは贅沢したい。 そんな事を思いながらうろうろしていると、後ろから声がかかった。 「あれ、牛尾じゃねーか」 「クロウ」 振り返ると牛尾を同じく買い物かごを持ったクロウが立っていた。 仕事帰りらしく、ジャンパー姿だ。 人懐っこく、とことこと寄って来て牛尾のかごを覗き込む。 「牛尾も夕飯の買い物か?」 相変わらず呼び捨てだな。 クロウも遊星と同じで年上に対して口のきき方がなってない、と思うことがあるが、その性格からかあまり気にならない。 というか、もう遊星で慣れた、と言うべきか。 牛尾は答えた。 「ああ、お前もか」 「おう。今日オレ当番だしな」 「献立は何にすんだ?」 「なんだ、参考にすんのかぁ?」 クロウは牛尾のかごに何も入っていないのを指して言う。 そうして、参考になんねーぞ、と前置きしてかごの中をかき回した。 「ええと、野菜炒めと、・・あとほうれん草が安かったから・・おひたしか何か?」 メニューを決めて買い物をしているわけではなく、安いものを買って、それから献立を考えているらしい。 「侘しいメニューだな」 牛尾が言うとクロウは口を尖らせた。 「仕方ねーだろー節約できるとこはしねーとよー」 クロウは、遊星ジャックと共に、一年後の大会に出場するためのエンジンを開発するために資金稼ぎとして働いているのだ。 開発なんてものは、金がかかるものである。 いくら開発担当の遊星の頭脳が優れていたとしても、金がかかるということには違いは無い。 しかし育ち盛りの10代の子供たちが、食費を削っている、というのは夢のためとはいえ気の毒な話だった。 「かご貸せ」 牛尾はクロウの抱えていたかごを取り上げると、自分のカラのかごを押し付けた。 「今日のメニューは焼き肉に変更だ」 言いながら肉を選び始める。 「お、マジかよ。奢ってくれんの?ラッキー」 嬉しそうにクロウが言った。 彼らシグナーは、冥界の王とかいうわけのわからないものから、この世界を救ってくれたのだ。 誰も覚えていなくても、覚えている自分が、たまにはサービスしてやったっていい。 「あとコレも買ってくれ」 カラのかごを返してきたクロウが、水のボトルを持って帰ってきた。 牛尾の許可も待たず、かごに入れる。 「あのな」 前言撤回しようかと口を開くと、先制してクロウが言った。 「最近遊星がコレ気に入ってるみたいだからさ」 「・・・へえ」 遊星が、と言われて牛尾は文句を言うのをやめた。 いろいろな種類が売られているが、正直水なんて何処がどう違うのかわからない。 それでもコレが気に入っているのなら買ってやってもいいかな、と思う。 「あいつさーほっとくと機械いじりに夢中になって、飯食わねーんだぜー。牛尾からも注意してやってくれよ」 「あーそうだな。・・って何本持ってきてんだてめえは!」 さらにかごにボトルを入れようとするクロウを小突く。 まったく調子がいい、というかちゃっかりした奴だ。 「あれ、遊星」 クロウの言葉に其方をみると向こうの棚の所に遊星が立っていた。 駆け寄るクロウの後を、牛尾も追う。 「どうしたんだよ?要るもんあんならブラックバードに通信入れてくれりゃいいのに」 「いや・・たまには荷物持ちくらいしようかと・この時間なら此処に居るだろうし」 言い難そうに遊星がそう答える。 「おーサンキュー。いつも籠りっきりじゃやんなるもんなー。でも今日は立派な荷物持ちが居るぜ」 「誰が荷物持ちだ」 突っ込みはスルーされた。 「喜べ遊星今日は肉だぞ〜!牛尾が奢ってくれるってさ」 「そうか・・・」 あまり感情が表に出ない遊星だが、どうも嬉しそうに見えない。 クロウが首を傾げた。 「どーした?肉好きだろ?」 「いや・・・」 遊星は言っていいものか考えるように少し間をおいた。 牛尾とクロウは黙って待つ。 「・・・お前たち、すごく仲がいいな」 「本当の親子みたいだ」 「親子って・・!!!」 クロウが盛大に噴き出した。 対照的に牛尾はがくりと肩を落とす。 「遊星、そりゃひでーわ。牛尾は確かに老け面で人相悪いけどもよー、こんなでけえ子供が居るような年じゃないって!!」 遊星の肩を叩きながらゲラゲラとクロウが笑う。 「誰が老け面だ!」 小突いてやろうとした手を避けて、クロウは他の棚を見に行ってしまった。 「ったく」 「すまない。ただ、仲が良くて羨ましいと思っただけなんだ」 遊星の謝罪に牛尾はため息をついた。 悪気がないのはわかっている。 たぶん、クロウに言われたのなら別にショックじゃなかっただろう。 其れが何故なのか自分でもわからないまま、牛尾は言った。 「そういう言い方なら、ヤキモチ妬いてるみたいでちっとは可愛いのによ」 「ヤキモチ?」 遊星は牛尾の言葉を反芻してしばし考えた。 ややあって呟く。 「そうか、これ、ヤキモチか」 「ちっげーだろうが!!!」 思わず牛尾は怒鳴った。 ヤキモチみたいだ、と言っただけで、そうだとは言っていない。 其処で納得されては困る。 しかし幼馴染と仲良くしていた、ってことで、少し面白くないと感じたのなら、それもヤキモチで括っていいんだろうか? いやでもそれヤキモチとはあんまり言わないよな? 牛尾が悩んでいる間にクロウが戻ってきた。 牛尾を見て言う。 「なんだ、真っ赤だぞ、牛尾」 「なんでもねえよ!」 ふうん、と流したクロウはまたかごに商品を追加した。 END 牛遊 クロウたんと牛尾さんは仲良しだと思いますv 遊星たんは「ヤキモチか」とか言いながら 全然自覚はないといい(^−^) まあ子供の世話は大変だね、って話(笑)
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