■夕飯(牛遊)■

牛遊。
こないだのタッパーを返しに来ました。









 

玄関の鍵が開いていた。
閉め忘れ、という可能性は低い。
警官の家に泥棒なんて洒落にもならない。
用心しつつ、ノブを回してみると、中から何やらいい匂いが漂ってきた。
そして玄関先に、何処かで見たようなブーツ。
「おい」
呼びかけるとサテライトの糞餓鬼は振り返って、無愛想に言った。
「おかえり」
「お帰りじゃねぇ、どうやって入った」
「タッパーを返しに来たと言ったら、大家さんが開けてくれた」
そういえばこの間のじゃが芋のフライを、レンジはあるというのでタッパーに入れて持たせてやったのだった。
律儀に返しに来たらしい。
それにしても此処の大家も呑気なものだ。
もう少しマーカー付に警戒心を持ったらどうなのか。
そうは思うが、実際一緒に居る所を何度か目撃されているし、こいつは荷物を持ってやったこともあるようだから、悪人だとは思っていないのだろう。
餓鬼が聞いてきた。
「夕飯は食べてきたのか」
「・・・いや」
見ればちゃぶ台のうえに2人分の皿が並んでいる。
先ほどの匂いは此処からだった。
炒飯とサラダとスープ。
これだけあれば上等だ。
「腹が減っていたから勝手に作らせて貰った」
「お前なぁ」
自分が食べたかっただけらしい。
二人分作っただけマシという話か。
勝手に人んち上がりこんで勝手に飯作るなよ。
そうは思いつつも、しかし仕事から帰ってきて食事が出来ているのは正直ありがたい。
んなもん食えるか!と怒鳴りたい所だが、食べ物に罪はない。
味が良ければいいんだが。
食えるんだろうな、これ。とりあえず匂いは美味そうだが。
早く座れ、と促されて向かい合って座る。
「いただきます」
手を合わせてそう言う様子はそれなりに躾けられて育った子供に見える。
生まれも育ちもサテライト、というわけじゃないんだろうか。

考えてみたら、何も知らない。

「・・不味いか?」
「いや」
手が止まっているのに気が付いた餓鬼が言う。
何処か不安そうな響きに聞こえて、慌てて手と口を動かした。
冷蔵庫に残っていたひき肉と、同じく残り物のご飯を醤油とマーガリンと塩で適当に味付けた炒飯。
肉しか入ってないじゃないか。
「お前、炒飯ならたまねぎとか入れるだろ、フツー」
「見つからなかった。別に入って無くても問題ない」
「あのな。人参があるじゃないかよ」
レタスと一緒にサラダになっている人参を指して、炒飯に入れろと言うと餓鬼はしれっと言った。
「サラダが食べたかった。レタスだけじゃ淋しい」
炒飯<<<<サラダかよ!
普通主食に力入れるだろ!
突っ込みどころが多すぎて疲れる。
「それよりバターがない。マーガリンじゃなくバターを使いたかったのに」
「高いんだよ、今」
なんかヘンなとこには拘ってくるなコイツ。
「バター有ると便利だ。ラーメンにちょっと入れるだけでも全然味違うし」
「あーウルセーなてめーは。人のウチの冷蔵庫事情にケチつけてんじゃねーよ」
口喧嘩になりそうな勢いで会話をし、最後のスープを飲み終わった。
「ごちそうさん」
そう言って、もう一言付け加えてやる。

「まあ、美味かった」

ややあって、餓鬼が言った。
「・・・・そうか」

お、笑った。

笑うと年相応に見える。
「置いとけよ、後で洗う」
「ついでだから洗って帰る」
皿をシンクへ運ぶ姿は、いつもと同じ無表情、愛想のない顔なのに、嬉しそうに見える。
飯が美味かったと、ちょっと誉めてやっただけなのに、そんなに嬉しかったのだろうか。

たぶん、他人が見たらあれが『嬉しそう』だとは思わないだろう。
あの無愛想な状態が『嬉しそう』だとわかるようになってる。

「なにやってんだかなぁ」
思わず牛尾はぼやいた。
あんなサテライトの糞餓鬼に、なんだか振り回されている。
治安維持局の命令で捕まえることが出来ないなら、せめて監視しておこうと思った。
最初はただ、それだけだったはずなのに。


ぼやきながらも、とりあえず今度バターを買ってきておいてやろうと思った。






END






牛遊
にゃんこがちょっと懐いてきたので
牛尾さんも少し可愛いかなって思うようになってる・・てなカンジで(^^ゞ


遊星たんは自分が気にならないことは特に執着しないタイプだと思うのです。
その代り拘るところは絶対譲らない、みたいな。




2008.12.06

 

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