■名前(牛遊)■
牛遊・おんりでの無料配布本から。
マーサが生贄になった後、出発前です。
出発までの間、子供も居ることだし、仮眠を取ろうということになった。
だが、眠れない。 外の空気でも吸おうと勝手口から出ると、花壇が目に入った。 チューリップの並ぶ、花壇。 馬鹿にするばかりだったサテライトに、会ったばかりの人間の失恋まで気にかけてくれる人が居た。 此処へ来て、対して時間もたっていないのに、いろいろなことが変わった気がする。 ヘリの操縦者として付いてきただけだった、はずなのに。 「眠れないのか」 後ろから声を掛けられて振り返ると、遊星が立っていた。 「お前こそ、眠れないのかよ」 遊星はそれには答えなかった。 眠れないだろう。 当たり前だ。 ラリー・ドーソンはマーカー付であったから、セキュリティとして牛尾も知っている。 あの少年が遊星の仲間であったことも。 盗みを働いた彼を庇うためにデュエルをするほど、大事にしていたことも。 そしてこの家の主だった、マーサ。 身寄りの無い子供たちが沢山暮らしているこの家で、遊星も育ったのであろうことは、想像に難くない。 大切な人間を目の前でなくした。 それが、ショックでない人間が居るだろうか。 「さっさと寝ろよ、お前らシグナーだけが頼りなんだからな」 牛尾は努めて軽い調子で言った。 「運転手くらいしか出来ねえが、出来ることはオレも頑張ってやるから」 遊星は少し笑ったようだった。 「ああ、頼んだ。牛尾」 そう言って、踵を返す。 牛尾、と。 いつの間にか、名前で呼ばれていることに気がついた。 「おい、遊星」 牛尾は行こうとした遊星を呼びとめた。 遊星が振り返る。 呼びとめたものの、何を言えばいいのかわからない。 しばらく逡巡した結果、口から出たのは謝罪だった。 「・・ゴミとかクズとか言って悪かった」 それはサテライトに対する偏見でしかなかったとようやく気が付けたように思う。 頭を上げてみると、遊星は驚いた顔でこちらを見ていた。 こんな顔もするのか、と此方が驚くくらいの、いつもは大人びた少年の、年相応ともいえる顔。 そんな顔をされると妙に照れくさい。 「ほら、早く寝ろよ」 横をすり抜けようとして、遊星に腕を掴まれた。 「何だよ?」 腕が伸びてきて、頬に触れる。 「痛むか」 傷のことを言っているのだとようやく気がついた。 この傷は自業自得ともいえるが、遊星とのデュエルの際に付いたのだった。 恨んでいた筈なのに、忘れていた。 「痛かねえよ」 「そうか」 「ハクがついてよかったくらいだ」 牛尾はそう言って胸を反らしてみせた。 「そうだな」 遊星はいつもの表情を浮かべて言った。 「人相がさらに悪くなった。悪人面だ」 「お前なぁ」 牛尾はその生意気な頭を小突いてやった。 「憎たらしいこと言ってねーで、さっさと寝ろ、糞餓鬼め」 END 牛遊。 マーサも無事でホントよかったですよ。 いつの間にか「お前」から「牛尾」になっていて大変に萌える。 最近すっかり仲良しですねv 傷のこと恨んでると思ったのになーんも触れないなぁ・・(^^ゞ
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