■「そう言って笑うので」(十翔)■ 十翔。修学旅行後の話。
修学旅行から帰った夜、翔はオシリスレッドに泊まりたいと言った。
特に気にもせずに、いいぜ、と返事をしたのだけれど。 いつもは特に許可を貰わずとも、割と頻繁に気の向いたときに泊まっていくんだよな。 やっぱり、修学旅行で疲れたのかな。 いろいろあったしなぁ。 不安で、人恋しいのかもしれないな、と思った。 翔は寂しがりやなところがあるし。 翔が以前使っていた三段ベッドの真ん中は、今も翔の専用だ。 2段目はちょっと狭いし、身体の大きな剣山では使いにくいようだ。 そんなわけで「翔のもの」と決めて、他の誰にも使わせていない。 だから今夜も当然其処で寝るものと思っていた。 「アニキ・・」 剣山は疲れたらしくとっくに最上段で寝息を立てている。 オレ達もそろそろ寝ようぜ、と言ったら翔はおずおずと言った。 「今日、一緒に寝ちゃ駄目・・?」 布団に入りかけていたオレは返事の代わりにちょいちょいと翔を手招きした。 曇っていた表情がぱっと明るくなる。 翔のために奥へ詰めてやるとそこへ潜り込んできた。 翔がいくら小さいとは言っても三段ベッドは窮屈だから、布団を被ってさらにくっ付いて密着する。 抱きしめた翔の身体は温かかった。 「ゴメンねアニキ迷惑かけて」 腕の中で翔が呟いた。 美寿知とのデュエルのとき、人質になった事を言っているのだろう。 そんなの翔のせいじゃない。 「迷惑だなんて思ってないぜ」 「うん」 翔は頷いた。 オレがそう言うことなんてわかっていた、という風に。 「でも、アニキ元気なかったから」 確かに美寿知とのデュエルには、勝った。 だけど美寿知は電脳世界に残ってしまった。 多分、勝っても負けてもそうするつもりだったんだと思う。 プログラムとかそういう小難しいこと、どういう風になっているのかよくわからないけど、海馬瀬人に頼んでくれると言った遊戯さんの祖父さんに任せるしかない。 でも そんなデュエル、オレはしたくないのに。 デュエルは楽しいものなのに。 そういう気持ちがやっぱり顔に出ちゃってたかもしれない。 翔は小さな事を割と気にする方だから、翔の前では笑っていようと思ったのに。 上手く出来ていなかった、かな。 「オレより、お前だろ」 オレはそれを誤魔化すように言った。 「せっかくの修学旅行だったのに酷い目あってさ」 「ボクは平気だよ」 「アニキが助けてくれると信じてたから」 そう言って翔が笑った。 それを見たらなんだか子供みたいに安心してしまった。 美寿知とのデュエルの後のもやもやした気持ちが無くなっていく。 ああこの笑顔が見たかったんだ、と思った。 翔が笑っていてくれると安心する。 其処に日常が、オレの居場所が在るんだと思う。 「ありがとな、翔」 何だか照れくさくて顔を見れない。 でも気持ちは伝えたくてぎゅ、と抱きしめる。 翔もぎゅうと抱きしめ返してきた。 あったかい。 修学旅行もいいけど、やっぱり此処が一番落ち着く。 「帰ってきた」ってカンジがいいよな。 オレは狭い三段ベッドの中で翔を腕の中に抱え込んだまま眠りに付いた。 END 十翔 翔がにこにこしててくれれば アニキも安心出来るんじゃないかと思うのです。 そんな感じで。 実際は修学旅行から帰ってきてすぐアリス戦だったですが(^^ゞ 斎王兄妹に振り回された修学旅行で 帰りのバスでもしょんぼりしてたし 楽しみにしてたのにかわいそう・・と思ってたんですが 翌週にはケロリとしていた(笑) さすがGX! 2006.05.07
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