■「名前を書いておけ」(十翔)■ 十翔。翔が黄寮に上がった後くらいの話
「靴下ー靴下がないー」
レッド寮の朝はいつも騒がしい。 ごそごそと部屋の中を探していた十代が顔を上げて訊ねた。 「万丈目、オレの靴下知らね?」 「万丈目さん、だ」 万丈目はまず訂正を入れてから言った。 「お前の靴下なぞオレが知っているわけがないだろう」 「あー翔が居たらちゃんと片付けといてくれるのに」 万丈目の言葉を聞いているのか居ないのか、十代は嘆いた。 翔は、イエロー寮に昇格したため、今はこの部屋に居ない。 もっとも頻繁に此処に出入りしているため、居なくなった、という実感は薄いが。 「そんなことは自分でやれ!」 万丈目がキィと怒鳴った所で何故か部屋に居座っている一年坊主が言った。 「アニキ、オレの洗濯物に混ざってたコレ、アニキの靴下ざうるす?」 「おお、それそれ!サンキュー!」 「まったく」 万丈目は呆れたようにため息をついた。 「今度からちゃんと名前を書いておけ」 「名前?」 「そうだ」 聞き返す十代に万丈目は頷いた。 「自分のものにはちゃんと名前を書いておけ」 ぽい、と放り投げられた油性マジックを受け取って十代は大きく頷いた。 「なるほど」 名前を書いておけば、誰のものかすぐわかる。 もし失くしたとしても、名前を書いておけば発見される可能性は高くなるだろう。 十代は大きく靴下に名前を書いた。 「おはよう〜アニキー」 其処へ翔がドアを開けて入ってきた。 寮が変わってからも翔はこうやって此処にやってくる。 「あ、珍しく皆起きてるー」 マジックを握ったまま、十代が、にやりと笑った。 「え、何っ?!」 その人の悪い笑みに翔は逃げ腰になる。 過去の経験からこういう笑い方をするときはロクなことがないと知っているのだ。 「おい十代!」 十代の意図に気がついた万丈目が制止するより早く、十代は翔を押さえつけた。 「ぎゃあ!」 マジックで頬に大きく『十代』と書く。 万丈目が頭を抱えた。 一年坊は呆然とその現場を見ているしか出来ない。 「ナニコレ〜!」 翔が騒いだ。 「あ、これ油性じゃないか!アニキの馬鹿っ」 レッド寮の小さな水場で顔を洗いながら翔がさらに喚く。 「落ちないじゃないっすかー!何々すかもう!」 騒ぎ立てる翔に対して、十代はケロリと澄まして言った。 「だって万丈目が自分のものには名前を書いておけって」 「はあ?!何すかソレ!?」 翔の剣幕とは裏腹に、十代は上機嫌だ。 万丈目はため息をついた。 今日も騒がしくなりそうだ。 END 十翔 翔が黄寮に上がったころに書いて放置してたヤツを 仕上げてみました。 準たんもこの部屋の住人だった頃ね。 アリガチネタではありますが(^^ゞ 察しのいい方はお気づきでしょうが 2007.06.09
|