■「伝えたい言葉」(十翔)■

十翔。164話、翔のデュエルのあと。




 






寮から埠頭へと向かう橋の袂で翔は十代を待っていた。
レッド寮へ帰るためには必ず此処を通るはずだから。
伝えたい、言葉があった。
「翔?」
呼ばれた声に顔を上げると十代が立っていた。
「どうしたんだ、こんなトコで。カイザーのこと放っておいて大丈夫なのか?」
「うん、兄さんなら大丈夫だよ」
もう本当に大丈夫だと言える。
新しいプロリーグを作りたいと夢を語る兄に、例え命を捨てることになってもデュエルをしようとするような暗い影は見えない。
「アニキ、ありがとう。アニキのおかげっす」
「オレはなんにもしてないぜ」
十代はそう言った。
「翔が頑張ったんだろ」


ああ、こうやっていつも守られている。

何もしていない、などと言いながらどれだけ沢山のものを貰ってきただろう。



「でもアニキがいろいろアドバイスくれたおかげだから」
翔は言った。

「ありがとう、アニキ」

目を見てそう告げると十代は少し照れくさそうに頬を掻いた。
話題を変えようとするかのように言う。
「・・カイザーに付いてなくて本当に平気なのか?」
「大丈夫っすよ。後でまた様子を見に行くし」
翔は笑った。
それから言いたかった話に触れる。
「・・兄さんが新しいプロデュエルリーグを作りたいって言うんだ。・・・一緒にやろうって言ってくれたんす」
「そうか、良かったな翔」
「うん。それでね・・・よかったらアニキも卒業後はボクと兄さんのリーグに参加してもらえたらなって思って」
「・・・オレは」
十代は即答を避けて視線を流した。
この反応は予想できたものだった。
藤原優介の姿を借りて実体化してきた精霊オネスト、ダークネスのこと、そしてミスターTと名乗る人物。
この島にまた何かが起こっている。
凶事の前兆か、それとも吉兆なのか、それはわからない。
わかるのは、それはまた十代に降りかかってくる事件だということ。
十代自身もそれを理解している。
だからこそ将来のことについて、まだ何も考えられないのだろう。
仲間たちは皆、卒業後のビジョンを描き始めているというのに。
「ボク、サイコ流とのデュエルに勝って、少し自信がついたっす」
翔は言った。
「また悪い癖が出て調子乗ってるって思うかもしれないけど・・そうじゃなくって・・・今度、またあのミスターTとか言う変なヤツが現れたら」


「ボクも、闘うから」


見ているだけじゃなく、闘うから。


今度はボクが、アニキを守るから。



「・・・翔」
十代が掠れた声で翔の名を呼んだ。
まだまだ弱いくせに生意気なことを言ってしまった。
頭に血が上る。
けれど、翔は一気に言った。
「そりゃあボクなんかアニキと比べたら弱くって全然頼りにならないかもしれないけど、でもアニキが邪魔だって言ったって一緒に行くから!」

絶対に伝えたい言葉だから。


今度は決して、一人で行かせたりしないから。


「それだけっす!お休みアニキ!!」
言うだけ言って、踵を返す。
「翔!」
走ってその場から去ろうとした翔を、十代が呼び止める。
立ち止まって振り返った翔に、十代は告げた。
「ありがとな、翔。・・頼りにしてるぜ」
「アニキ・・・」
異世界から帰ってきて何処か大人びた表情を見せることが多くなっていた十代の、以前と変わらない笑顔。
思わずぐす、と鼻を鳴らす翔に思い出したように十代は付け加えた。
「それと」


「ガッチャ!いいデュエルだったぜ」



懐かしいそのポーズを真似して翔はえへ、と笑った。



 


 

END

 






十翔

 

いきなり丸藤関係の話をまとめにくるんじゃなく
もっとゆっくりじっくりやって欲しかった感はありますが
でも幻魔と並ぶ
丸藤話の神回だったと思います。

で、お兄さん関係の方はもう大丈夫かなと思うので十翔を補完(^_^)

今度は見てるだけじゃなくて翔にも頑張って欲しい。
守られてるだけじゃなく、好きな人を守ることも出来る子
もうそれだけの力はあると思います。
しかしアニキはホント翔を大事にしてるよな!と思った。
素晴らしい。
丸藤話はもれなく十翔も楽しめてお得です♪


2007.12.09

 

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