「こんなところに居たのか、十代」
港で釣りをする背中に声をかける。
この呑気な釣り人が、世界の危機を救った決闘者なのだ。
振り返った十代はヨハンの姿を認めると面白くも無さそうに言った。
「ヨハンか」
「ヨハンか、じゃないだろ。機嫌悪いな」
「別に機嫌が悪いわけじゃない」
そう言いながら十代は再び釣り糸を垂れる。
「お前、何時までここに居るんだよ?自分の学校戻らなくてもいいのか?」
ほら、邪魔にしてるじゃないか。
内心そう思いながらヨハンは言う。
「どうせだからお前らの卒業式見ていこうかと思ってさ。オレは向こうじゃ優秀な生徒だからちょっとくらいサボったって何の問題もないしな」
やや自慢げなヨハンの言葉に十代は詰まらなそうに短く答えた。
「そうか」
そう言ってまた釣り糸の先を眺めている。
その横顔はまるで世捨て人のように見えた。
もうすっかり悟りを開いて、何も欲しいものなどありません、なんて、まるで仙人みたいな顔をしている。
だけどそれは本当の顔じゃないハズだ。
糸の先をだた眺めている十代に、さも今思い出しましたとでも言うように別の話題を振ってみる。
「レポートのことで、クロノス教諭が探してたぜ」
「げ」
この話題には十代も反応せざるを得なかったようだ。
「またどっか書き直せってのか?」
実技はともかく、筆記試験はそれほど得意でない十代は、加えて授業に出なかったこともあって、卒業するために結構な枚数のレポートを課せられていた。
一時は卒業せずに退学しようとしたようだが、考え直したらしい。
皆と一緒に卒業するために。
まあそんなわけで提出したはいいが、何回も直しが入って其れはそれで大変なようだ。
其れを手伝う小さな同級生も資料だナンだと走り回っていた。
「いい先生じゃないか」
「そうなんだけどな。・・でもレポートはイヤだ」
ぶつぶつと文句を言う十代にヨハンは笑った。
異世界から帰ってきてなんだか変わってしまったような気もしていたが、基本的なところは変わってなんかいないのだ。
だから、言ってやった。
「クロノス教諭と一緒に」
「翔も探してたぜ」
「翔が?」
「アニキ!」
そのとき十代を呼ぶ声がした。
振り返った十代がその声の主を見つけて名を呼ぶ。
「翔」
ああ、嬉しそうだ、と思った。
声がまるで違う。
「もう、アニキってばクロノス先生が探してたよ!」
言いながら翔は十代の腕を掴む。
「わりぃ」
「ホラ釣りなんかしてないで早く!」
「わかったって」
有無を言わさずぐいぐいと腕を引っ張る翔に十代も腰を上げる。
仕方ないなって風を装ってはいるけれど。
ヨハンは思わず噴出した。
なんだ、やっぱり翔に迎えに来て欲しかっただけじゃないか。
そう思えば最初の不機嫌も納得がいく。
「何スか?」
笑うヨハンを翔が怪訝そうな顔で見上げた。
「世界を救った英雄も、結構甘えん坊だなと思ってさ」
英雄なんて言われたって、根本的なところはそう変わるもんじゃない。
自分を探しに来てくれる水色の髪を求めてる。
ダークネスを退けた決闘者は余計な事を言うなと不平を述べた。
END
ヨハンとアニキは似てるから
かなりわかるとこあるんじゃないかと思うわけです。
十翔でヨハンを出すと大変間男臭くて申し訳ない(^^ゞ
だって「十代の弟分はオレの弟分」だから(^_^)
実を言うと十翔アンソロのボツ原だったり
ボツの理由はヨハンばっかりで翔の出番が少ないから(^^ゞ
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