■「涙色の水たまり」(十翔)■

■空色模様の恋模様

涙色の水たまり・十翔
幻魔の扉後









デュエルは楽しいものだって思ってた。
そりゃあ勝った方が楽しいけど
負けたっていいデュエルが出来れば楽しい。

楽しいって、思ってたんだ。




膝をついた翔は、いつまでも泣きやまなかった。
後から後から涙が出てきて地面にぼとぼと落ちる。
水たまりでも出来そうな勢いだ。
翔がどれだけカイザーを、自分の兄ちゃんを大好きだかわかってるつもりだった。
大好きで大好きで。
あんまり好き過ぎて自分には手の届かない雲の上の人みたいに思って憧れてる。
カイザーが一番正しい。
カイザーの言うことは全部正しい。

翔の神様。

カイザーの方だって、あんまり話しかけてきたりしないけど、翔のことをすごく大事にしてるのはわかってるはずだった。
だけどオレが思ってるよりもずっと、兄弟ってのは、いや翔とカイザーの間には、強い何かがあったんだ。
翔の涙は止まらない。
この涙は全部、カイザーのための物だ。
其れが何だか悔しい。
「翔、泣くなよ」
オレは翔の顔を覗き込んで言った。
「オレが絶対あいつやっつけて、カイザーを元に戻して見せるから」
翔はオレを見上げてゆっくり瞬きをした。
睫毛に溜まった水滴がまた頬を伝っていく。
「駄目だよ、アニキ、負けたら人形にされちゃうんだよ?」
しゃくり上げながら、小さな声で翔は言う。
「・・アニキまで・人形にされちゃったら・・・」
翔の涙がまた地面に落ちた。
今度はオレの為の涙だ、と思った。
さっきはカイザーの為に泣いてるのが嫌だったくせに、自分が泣かせてるのはもっと嫌で。
ハンカチを持ってなかったので、手で拭ってやった。
ずっと泣いてたから頬っぺたが冷たい。
いつもはもっとあったかいのに。
温かくてふわふわで、まるで日なたみたいに笑うのに。
そのまま両手で翔の頬を挟んで、眼を覗き込む。
「大丈夫」
オレは翔のデコに自分のデコをくっつけてゆっくり言った。


「オレは絶対負けない」

絶対お前を泣かせたりしない。





デュエルは楽しいものだって思ってた。
負けたって楽しいものだって。
でも、そうじゃないこともあるんだって知った。

何だか嫌な気持ちだ。


それが自ら負けを選んだカイザーに
こんなに翔を泣かせてるアイツに対してだって
本当は気が付いていたけど



見ない振りをした。





END





十翔
幻魔後
翔が泣いてるのが嫌なアニキが萌えたのです。
丸藤話はもれなく十翔的にも美味しいv

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2008.03.15

 

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