■「その手に触れていたいから」(十翔)■

十翔。ダークネス戦後。未遂。





その手に触れていたいから。

 

 

「・・・翔」
部屋の中は暗い。
多分夜なのだろう。
ずっと寝ていると時間の感覚がなくなってくる。
だが。
いつ目を覚ましても必ずベッドのそばに翔が居た。
今も居るはず、とわかっていてもそれでも名を呼ばずにはいられない。
椅子がかたり、と音を立てた。
「どうしたの、アニキ。どこか痛むの?」
呼ばれた翔は立ち上がって心配そうに横になったままの十代の顔を覗き込む。
「・・いや大丈夫だ」
翔の顔を見て十代は身体からほっと力を抜いた。
「そう?」
ならいいけど、と翔は椅子に掛けなおした。
それでも心配そうだ。
「アニキ喉渇かない?何か飲む?」
「いい」
「そう?」
再び立ち上がった気配に十代は手を伸ばした。
伸ばされた手を握って翔はもう一度腰を下ろす。
「他に何か、欲しいものある?」
自分よりも小さな手を握って十代は安堵のため息をついた。



暖かい。



「アニキ?」
十代のそんな様子に、手を握ったまま翔が問いかけるように名を呼んだ。
「飲むものはいらないから」
繋いだ手に力を込める。


「キス、してくれよ、翔」


「・・はあ?!」
3秒ほど間があって翔は素っ頓狂な声を出した。
「そんな大声出すと明日香が起きるぜ?」
衝立で仕切られているとはいえ、同じ部屋に天上院兄妹がいることをうっかり忘れたらしい翔にちょっと意地悪く注意してやる。
慌てて翔は口を押さえた。
「な、何言ってるのさっアニキ」
「何か欲しいものがあるか、って言うからさ」
小声での抗議をしれっと返してやる。
「言ったけど、そうじゃなくて、寒いから毛布もう一枚とか、そういう・・」
「そんなのいらない」
翔の言葉を十代は遮った。
まっすぐ目を見て真摯に告げる。


「・・・翔が欲しい」


「・・・っ」
翔は真っ赤になって十代から目を逸らした。
本気で言っているとわかったのだろう。
手を離そうとするがそれは許さない。
ぐっと力を込める。
「翔」
「・・わかったっスよ!」
呼びかけるとやけくそのように翔が言った。
「目瞑ってよ、アニキ」
「ん」
翔の言葉に素直に従って目を閉じる。
翔の吐息が近づく。
しかし其処からなかなか先へ進んでこない。
いい加減焦れて十代はぱちりと目を開けた。
「わわっ」
かなり近い位置に居た翔は、慌てて身を引こうとした。
それを十代は許さない。
掴んだままだった手をぐっと引き寄せる。
バランスを崩して翔は十代の上に覆いかぶさるように倒れこんだ。
「アニキ・・・っ」
体勢を立て直そうとする翔を抱き寄せてキスをする。
逃げようとする翔の頭を押さえつけるようにしてさらに深く。
「・・っん・・・っ!」
口付けたまま体制を入れ替えようとする。
「やめてよ・・っ!」
組み敷かれる形になった翔が叫んだ。
強い口調に、手が止まる。
見下ろした翔の目に涙が溜まり、それは見る間にぼろぼろと零れ落ちた。
「翔・・」
「アニキは今すごく調子悪いのに・・・だから、寝てなきゃ駄目なのに・・・」
翔はぐいと涙を拭った。
「こんなことするなら、ボク帰る!」
言うなり十代を押しのけてベッドから離れようとする。
十代はその手を掴んだ。
「ごめん、大人しく寝るから」



「だから此処に居てくれよ、翔」
 


ずっと、側に居て。



翔がほとんど休まないで付いていてくれるのはわかっている。
それでも
顔が見えないと
温かいその手に触れていないと、不安で。


「アニキ・・?」
まるで懇願するかのような十代の言葉に、翔はそっとその背に腕を回した。
「ごめん、大丈夫だよ。ボク此処に居るから」
「・・うん」
背中にその腕の温もりを感じながら目を閉じる。
 


自分が痛いだけならいいけど
誰かが巻き込まれるのはキツイな・・




それが大事な人なら、なおさら。



それでも手に入れた温もりを離したくないから。

温かいその手に触れていたいから。

 

 



まだ身体にダメージが残っているせいか、眠りに引き込まれていく。



十代は翔の腕の中で眠りについた。

 

END

 




十翔

 

ダークネス戦後の捏造です。

アニキは「無くしたらどうしよう」って不安を持ったことがなかったんじゃないかと思うんですよ。
ああいう性格だし、欲しいもの望むものはたいてい手に入ってたと思う。
それがなくなる心配はしたことなかったじゃないかと。
闇のデュエルで翔(だけじゃないけどな・笑)が人質とられて
初めて不安になった、みたいな。
まあぶっちゃけエッチへ持っていこうとして失敗しました、みたいな感じですか(私が・笑)
体力には自信があるのにね!

 

2005.05.16

 

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