■「頭を撫でてやろう」(十翔)■

万+翔、十翔。キライなものなんて。






オベリスクブルーに居た頃は
キライなものなんて

 

触るのも嫌だった。




「おいこら」
オシリスレッドの食堂で、自分の皿を突きながら万丈目が言った。
「牛乳をこっちへ寄越すな、丸藤翔」
「いいじゃん」
じろり、と睨まれても臆する風でもなく翔はけろりと言い放つ。
「人参食べたげるからさ」
ね、と上目遣いに言って小首を傾げる。
ようするに嫌いなものを交換しよう、と言うのだ。
万丈目は、人参が嫌い。
翔は、牛乳が苦手。
悪い条件ではない。
しかし可愛らしいといえるその仕草を、万丈目はばさりと切って捨てた。
「余計なお世話だ」
お前の助けなどいるか、と鼻を鳴らす。
しかしそういう割に万丈目の皿には付け合せの人参がいつまでも乗っている。
「なんだよー残ってるじゃん」
翔に指摘された万丈目はソレをフォークで突き刺すとぽい、と口の中に放り込んだ。
ごくり、と喉が鳴る。
「あ、飲んだ」
ほとんど噛まずに飲み込んだ万丈目を翔が覗き込む。
「すごーい飲んだ」
「食べたんだ!」
「えらいー残さないんだー」
「当たり前だ。残したら勿体ないだろう」
「万丈目くんって」
言い切った万丈目に感心した声で翔が言った。
「いいとこのお坊ちゃまなのにそーゆーとこえらいっスよね」
なでなで。
声と共に翔の手が万丈目の頭を撫でる。
万丈目はそれを弾き落とした。
「撫でるな!」
「・・・なんで?」
心底不思議そうに問い返す翔に万丈目は不機嫌な声で言う。
「馬鹿にされている気分になるだろうが」
「なんでー?馬鹿になんかしてないのに!」
翔はさらに大きな声で騒いだ。
「万丈目くんヒガイモウソウっスよ!!ジイシキカジョウだよ!」
「五月蝿い!」
ぶぅぶぅと文句を垂れる翔を万丈目は一喝する。
翔は今度は少しトーンを落として聞いてきた。
「・・頭撫でてもらうと嬉しくないっスか?」
「別に。子供じゃあるまいし」
そっけなく答えると翔は不満そうに頬を膨らませた。

その様子に、多分こいつは頭を撫でてもらうのが嬉しいんだろうな、と思う。

「何話してるんだよ」
突然後ろから手が伸びてきて、翔を捕らえた。
「ぅわ!アニキ!」
「早く食べないと学校遅刻するぞ」
好き嫌い無く、さっさと先に食べてしまった十代だが、翔が遅いので様子を見に戻ってきたらしい。
「だって牛乳がー」
翔が情けない声を出して牛乳を指差す。
残すのは翔も勿体無いから嫌らしい。
「少し飲んでやるよ」
十代はさっと牛乳を取り上げて、ごくごくと半分ほど飲んだ。
そして軽くなった牛乳のパックを翔の手に返す。
「少しは飲めよ、翔。万丈目だって人参食ってるじゃん」
万丈目のトレーを指して十代にそう指摘され、翔はちょっと唇を尖らせて甘えた声で答えた。
「えーもう少し飲んでよーアニキ」
「翔が飲んだらな」
呻りながらも、翔が申し訳程度に少し飲んだ。
残った牛乳を十代が飲み干す。
「甘やかすな」
万丈目が口を挟むと、翔がキィと怒鳴った。
「五月蝿いな!あんまし飲むとお腹壊しちゃうんだもん、いいじゃないか飲んでもらってもー!」
ヒスを起こした翔がバタバタと暴れる。
「まあまあ」
十代に続いて様子を見に来た隼人が仲裁に入った。
隼人によしよし、と頭を撫でられてぶつぶつ不平を述べながらも翔が大人しくなる。


ああ、やっぱり、と思う。

頭を撫でたら静かになった。


「んで、何の話してたんだ?」
空になった牛乳のパックをゴミ箱へ放り投げて十代が訊ねた。
「万丈目くんが、頭撫でられるの嫌だって」
「なんで?」
先ほどの翔と同じように、不思議そうに十代が聞いてくる。
その同じような反応にイラつきながらも万丈目は答えた。
「子供じゃあるまいし、頭撫でられて嬉しいわけがないだろう」
「そうか?」
十代はそれを疑問系で否定した。
「撫でてもらったら嬉しいだろ?」


「だって『好き』ってことじゃん」


「・・・好き?」



好き?



思わず問い返していた。
「嫌いな奴になんか、触るのも、触られるのも、ゴメンだしさ」
十代は言った。
「側にだって居たくない、だろ?」


オベリスクブルーに居た頃は
キライなものなんて
視界に入れるのも嫌だった。

触るどころか

見るのだって嫌だった。



最後の人参のかけらを口へ入れると万丈目はトレイを持って立ち上がった。
翔も自分の皿を片付けるために立ち上がる。


オベリスクブルーに居た頃は
人参も
キライだといえば
出されなかった。




あの頃


『好き』だと思えるものなんて



何もなかった。

 



返却口に食器を返して万丈目が言った。
「今度から牛乳は温めてもらえ」
そうすれば腹を壊すこともないだろうと思って提案してやる。
翔は口を尖らせた。
「・・温めると出来る、あの膜がイヤダ」
「いちいち五月蝿いぞ貴様!」
今度は万丈目がキィと怒鳴る。



オベリスクブルーに居た頃は
キライなものだらけで

何もかもが嫌だった。


でも



今は。

 


怒鳴ったついでに万丈目は翔の頭をべしり、と叩いた。
「いったーい!」
思ったとおり翔がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。
「いちいち五月蝿いぞ貴様」


そう言いながら万丈目は自分が笑っていることに気が付いていた。

オベリスクブルーに居た頃は
キライなものなんて
視界に入れるのも嫌だった。



でも今は視野が広がったと感じている。






オシリスレッドも、悪くない。







この次こいつが騒いだら、頭を撫でてやろう。









 

 

 

END

 






万翔・十翔

 
仲良し準たんと翔(^_^)
別にカップリングじゃなくても
この二人が仲良しだと嬉しいっス。
嫁同士仲良し〜みたいな。

サンダーはオシ寮へ来てから好きなものが増えたと思うのです。
本気でぎゃあぎゃあケンカできる相手も今まではいなかったしね。

アニキはしっかり翔と間接キッスしてますヨ(笑)
そして私は隼人がかなーり好きなのでした。
あの子が一番翔に「お兄さん」っぽいことをしてくれてると思うの。
アニキは旦那ですから!(笑)

2005.09.03

 

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