■「そっちばっかりずるい!…頭なでさせて」(剣翔)■

■身長差の恋のお題

「そっちばっかりずるい!…頭なでさせて」(剣翔)
片思い剣山くん










あんまりレッド寮に入り浸りだと、寮長の樺山が泣くので、今日は自室へ帰ろうかとイエロー寮へ向かおうとしたら大きな木の下に翔が立っているのに気がついた。
絶対にアニキのところへ行ったと思ったのに。
「丸藤先輩、何してるどん?」
木の下で上を見上げている翔に後ろから声をかける。
「あ、剣山くんいいところに来た。コレ持ってて」
ぽい、と手の中に落とされた其れはぴぃぴぃと喧しく鳴いた。
羽も生え揃っていない鳥の雛。
「ボク、梯子借りてくるから。あ、食べちゃ駄目だよ!」
「食べないどん!」
人のことをなんだと思ってるのか。
そう思いながら見上げると、木の上のほうの枝に巣らしきものがあった。
この雛の兄弟らしき鳥の声もする。
「あそこから落ちたざうるす?」
「多分ね」
「丸藤先輩、ちょっと持ってるどん」
「え」
雛をもう一度翔に返してバンダナを取る。
端を縛って巾着のような形にすると、其処に雛を入れてもらった。
結び目を口に咥えて木の幹に手を掛ける。
「ちょっと剣山くん、登る気?」
「んー」
焦ったような翔の声を聞きながらするすると登る。
思ったよりも簡単に上まで登ると剣山は巾着の中身を巣に戻した。
「危ないよ剣山くん」
「大丈夫だどん」
口が開いたので下からの声に返事を返す。
と、目の前を影が横切った。
親鳥だ。
今帰ってきた親鳥にしてみれば、剣山は雛を狙う敵にしか見えないだろう。
巣から追い払おうとする親の動きに剣山はバランスを崩した。
「剣山くん!」
聞こえた声は悲鳴のようだった。



「痛いどん丸藤先輩!」
「五月蝿いよ、もう、大きな図体して。恐竜さんは強いんだろ。・・ハイおしまいっす!」
ペチン、と翔は剣山の腕を叩いた。
強く叩かれたわけではないが、大袈裟に痛がってみせる。
翔はむぅと口を尖らせた。
高さはあったものの、頑丈に出来ているせいか軽いうち身と折れた枝で出来た引っ掻き傷程度で済んだ。
日頃の行いが良いせいか。
傷もたいしたことはなかったが、翔が保健室へ行けと怒るので仕方なくやってきた。
鮎川はあいにく不在で、翔がぷりぷりしながら手当てをしてくれた。
そんなに怒ることないのに、と少し思う。
ちょっと前なら此処でまた口喧嘩になっただろう。
だけど今は心配してくれたのだ、とわかるから。
  
心配して、たいしたことなかったことに安堵して、そして其れを知られるのが嫌でことさら怒って見せるのだ。 

心配させて悪かった、と思う反面、心配してくれたことが嬉しい。
 「何にやにやしてるっすか」
嬉しい、が顔に出てしまったようだ。
翔が口を尖らせて剣山を見上げる。
「え、と、心配させて悪かったざうるす」
誤魔化すようにその頭を撫でる。
身長差があるせいか撫でやすい位置に頭があって、つい撫でてしまう。
そんな子ども扱いがキライなことも、撫でられるのがキライじゃないことも、もう知っている。
と、ていっ、とその手を払われた。

 「剣山くんばっかりずるいっす!」 

首に飛びつくように腕を回すと、翔はぐい、と剣山を引き寄せた。
翔の肩口に頭を乗せるような格好になる。
バランスを崩して倒れこみそうになるのを辛うじてこらえる。
翔は引き寄せた剣山の頭を小さな手で撫でた。
 

「・・怪我、たいしたことなくて良かったっす」  


柔らかい髪が頬に触れて、剣山はどうしたらいいかわからなくなる。  
やがて満足したのか翔は剣山の頭を解放した。
「じゃあアニキのトコ行こうか!」
翔の言葉に剣山は笑って頷いた。



上手く、笑えていただろうか。



END





片思い剣山くん。2年目後半ってアタリ?
自覚があって、でも翔がアニキが好きなのもわかってる、と。

素敵なお題を発見したので始めてみましたv
ボチボチやっていきます。

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恋したくなるお題 (配布)

 

2008.05.25

 

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