■「平気じゃないのはたぶん僕」(剣翔)■

手放せない恋のお題

剣翔
風邪っぴき翔。















翔はティッシュを無造作に箱から引っ張り出すと、思いっきり音をたてて鼻をかんだ。
そのゴミを部屋の隅に置いてあるごみ箱に向かって投げる。
残念ながらそれはごみ箱には届かず微妙な位置に落ちた。
「へたくそざうるす」
「うっさいな!」
率直な感想を述べた剣山に翔はキィと怒鳴った。
「そんなとこ居ないで自分の部屋帰りなよ!」
「今日はアニキのところ行かないどん?」
今日は珍しく、レッド寮には行かず、ラーイエローの自室に戻っている。
見ての通り風邪っぽいからというのが理由なのだが、一応心配して来てくれたようだ。
「行かないっすよ、風邪移したら悪いもん」
「アニキは風邪なんか引きそうもないざうるす」
「・・まあ確かに」
そう言われれば、去年だって翔や隼人が風邪で寝込んでも、一度だって十代は風邪を引いたりしなかった。
丈夫なのか、なんなのか。
普通部屋が一緒なんだからどうやったって移るはずなのに。
翔は剣山の身体をしげしげと眺めて言った。
「剣山くんも丈夫そうだよね」
「もちろん、風邪なんか引かないざうるす」
ふふん、と胸を逸らす剣山に翔は言った。
「剣山くん馬鹿だもんね。筋肉馬鹿。馬鹿は風邪ひかない」
「・・丸藤先輩は風邪ひいてても口が減らないどん」
呆れたように剣山は言った。
以前だったら『小さいくせに』とか余計なことを剣山が言い出して、もっと大喧嘩になるところだ。
最近、そういう喧嘩は減ったような気がする。
デュエルしてから、だろうか。
「うっさいってば。もう帰りなよ剣山くん」
再び鼻をかんで出来たゴミを、今度は剣山に向かって投げてやる。
剣山はそれを難なく避けて見せた。
「避けるな!」
「避けるざうるす」
キタナイどん、とか憎たらしいことを言うので翔は箱ごと投げてやった。
それも苦もなく避けられて、再び怒鳴る。
「避けるな!」
「無茶苦茶ざうるす」
落ちたティッシュの箱を拾って、剣山は翔の横に置いた。
それから部屋に点在するゴミを摘まんでごみ箱へ捨てる。
さっきキタナイとか言ったくせに。
拾って捨ててくれるなんて。
翔がそう思いながら見ていると、ごみ箱ごと持ってきてベッドの脇に置いた。
「あ・ありが・・」
礼を言いかけた翔に剣山はにっと笑って言った。
「此処に置いておけばいくら丸藤先輩でも外さないどん?」
「うっさいな!!」
ムキィ!と三度翔は怒鳴った。
「もう帰れ!」
「はいはい」
手足をばたつかせて暴れると、剣山はようやく退散することにしたようだ。
年下のくせに、なんて憎たらしいんだ!
ちょっといい奴かもとか思うんじゃなかった!
翔が思いっきりむくれていると、ドアの所で剣山は振り返った。
「トメさんが林檎くれたけど、食べるざうるす?」
「・・・食べる」
レッドの頃の習性か、食べ物が貰えるとなれば、昨日の敵も今日は友、である。
イエローに来てからはそれ程食生活で侘しい思いはしていないのだが。
食べ物に釣られた形になってしまって、翔は益々頬を膨らませた。
それを見ながら剣山は屈託なく笑う。
そんな風に笑うと、ちょっとカッコイイかも。
思わず、見惚れた。
「じゃあ剥いてくる来るどん。思ったより元気でよかったざうるす。食欲があるならすぐ風邪なんか治るどん」

「・・・何なんすか、もう」
ぱたん、と閉じられたドアを見ながら翔は言った。
心配してるのか、親切なのか、カッコいいのか、変なのか、憎たらしいのか、嫌な奴なのか。


好きなのか、
嫌いなのか。

全然わからない。




前は確かに嫌いだったんだよね。
・・今は?

・・・わからない。



「・・・・何なんすかもー!」
翔は赤くなった顔を誤魔化すように、鼻をかんだチリ紙を、移動して貰ったごみ箱へバシっと叩き込んだ。







END







剣翔
風邪ひき翔。
翔が風邪ひいていたら剣山くんはさり気に様子見に来てくれて
面倒みてくれるよね!という妄想。
ちょっとカッコイイかもとかうっかり思っちゃって
なんかムカつく!剣山くんのくせに!!
ってなる翔とか可愛いかも。という妄想(笑)

剣翔はやっぱ弟分対決デュエルが転機だったと思うんだ。



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恋したくなるお題 (配布)

2009.01.17

 

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