■「其れは見ればわかること」(剣翔)■ 剣→翔。ヘルVS吹雪の後。
「・・感じ悪いどん」
剣山は思わず呟いていた。 「お兄さんの悪口を言うな!」 声と共にぱすん、と何かが背に当たる。 投げられたのは靴だった。 自分の靴を投げてぶつけたのだ。 「何するどん!」 少し離れた所からだったし、翔はそれほど力があるわけではないから当たってもたいして痛くはなかった。 それでもむっとして声が荒くなってしまう。 この小さな先輩は、どうも強暴だ。 喧嘩をするときも、小さいからといってついこちらが手加減をすると、それがまた気に入らないらしくものすごい勢いで暴れる。 それでも今回はそんな喧嘩にはならなかった。 翔が大きな目に涙を溜めて剣山を睨んでいたからだ。 本気で怒っている。 「お兄さんは・・お兄さんはあんなこと言う人じゃないんだから!」 そんなこと知らない。 剣山が実際に見たのは、吹雪が投げたメダルを踏んで、「興味がない」と言い捨てたヘルカイザーだけだ。 その前のことなんか知らない。 この学園に居た頃、どんなデュエルをしていたのかなんて知らない。 わかっているのは、目の前の先輩の兄であるということ。 そしてこの先輩はあの人がとても好きなのだということ。 心配で食事も喉を通らなくなるほどに。 十代が居なくなった時もそうだった。 心配で心配で食事を受け付けなくなってしまう。 自分に何かあったときには、そんな風に心配してくれるだろうか。 「まあまあそのくらいで、ね」 吹雪が明るい声で割って入り、とりあえずこの場から移動することになった。 ヘルカイザーと闘いたいと言った翔に、一緒に歩きながら吹雪が何かアドバイスをしている。 それを見ながら後ろをついて歩いていると、十代が小さな声で言った。 剣山にだけ、聞こえるように。 「翔の前でカイザーのこと悪く言うなよ」 「でも、オレには嫌な感じにしかみえなかったざうるす・・」 言い訳のように、剣山も小さな声で答える。 「それでも、だ」 十代は言った。 「翔はカイザーのこと、世界で一番好きなんだから」 世界で一番、好き。 見ていればそれはわかる。 けれど言われた言葉に何故か胸がちくり、とした。 「好きなヤツの悪口言われたら、誰だって腹立つだろ」 「それはそうだどん・・でも・・」 それは、理解できるのだけれど。 傍で見ているだけでもわかるほど、好きなのに。 ヘルカイザーは翔を悲しませているだけのようにしか見えない。 それでも、好きなのだろうか。 「どっちにしろ」 剣山の方は見ないで、翔の後姿を見ながら十代が言った。 「オレたちカイザーを超えないと駄目なんだぜ」 「え、アニキそれ」 「おーい、翔」 どういうことかと、聞き返す前に十代は前を歩く吹雪と翔の会話に混ざってしまった。 だから、それが宣戦布告だと気が付くまで、数秒掛かった。 END 剣→翔で十翔 ヘルカイザーVS吹雪の後ってことで。 剣山くんが翔のこと好きだなんて 見てりゃバレバレだよ、って話でした(^_^) アニキに「オレのだから!」宣言されました、みたいな。 翔はアニキのこと好きだけど お兄さんのことはもう別格で大好きだと思うのです。 2006.06.18
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