■「カッコよかった?」(剣翔)■

剣翔。ジェネックス後。ヤキモチ(^_^)

 





「剣山くん、足、どうかした?」
「え?」
吃驚して視線を下に落すと、自分を見上げてくる小さな先輩と目が合った。
確かに、エドを助ける時にちょっと痛めたけれど、今はそれほど痛みはない。
普通に歩いているつもりだったし、だから気が付かれるとは毛頭思っていなかった。
「いや・・別に・・なんでもないどん」
心配させまいと、誤魔化そうとする口調は自然歯切れが悪くなる。
翔は口をへの字にひん曲げた。
あーしまった機嫌を損ねた。
と、思った瞬間、いきなり足に衝撃が走った。
「〜〜〜〜っ!!!」
思わず蹲る。
「何するどん!」
「ほらやっぱり痛いんじゃないか!」
抗議の声に耳も貸さず、蹴った本人は負けじと大きな声を出す。
「馬鹿みたいにカッコつけて我慢してないで、さっさと鮎川先生の所へ行きなよ!」
「・・蹴ることないざうるす」
翔の剣幕に押されて、ちょっと不平の声が小さくなる。
「うるさいな」
翔はキィと怒鳴った。


「ボクは抱っこして運べないんだから、自分で歩いていってよね!」


そりゃそうだ、と剣山は思った、
これだけ身長も体重も違うのだ。
足が痛いんだから抱っこして運べ、なんて無茶な事を言うつもりはない。
年下ぶるつもりもない。

むしろ、ひとつ下だなんて忘れてもらいたいくらいなのに。



そもそもなんで今『抱っこで運ぶ』なんて話が出るのか。
どうしてこんなに怒っているのか。
足が痛いのを黙っていたのは自分が悪いんだろうけれど、こんなにプンスカ怒ることもないと思う。
「早く!」
翔が足を踏み鳴らして、また急かす。
「今行くどん」
歩き出すと2、3歩遅れて後ろをついてくるのがわかった。


ああ、心配してくれているのだ。



そう思うと嬉しかった。



 

「丸藤先輩」
治療を終えて保健室から出てくると、翔は扉の横に座り込んでいた。
目を上げて剣山を見たものの、拗ねたように唇を尖らせて、何も言わない。
蹴っ飛ばした事を気にしているのだ、とわかった。
蹴ったせいで余計足が痛くなってしまったのではないかと。
確かにちょっと痛かったが、翔は非力だし、もともとが頑丈だからたいしたことはない。
そんな気にするなら最初からやらなければいいのに、と思うとちょっと可笑しい。
もう少し落ち着いて、考えてから行動すればいいのに。
人のことは言えないが。
ひとつ上、というものは自分よりももっとオトナだと思っていたのに。

 

年上だなんて思えない。



「恐竜さんは強いから、これくらいなんともないざうるす」
平気だ、と証明するかのようにトントン、と足踏みしてみせる。
翔はプイ、とそっぽを向いた。
「別に心配なんかしてないもん」
あくまでもそれで通したいらしい。
心配していない人間が、こんなところに座って待っているはずもないのに。


「だいたい馬鹿みたいにカッコつけてるから怪我なんてするんじゃん」


さっきもそんな事を言われた。
確かにちょっとカッコいい所を見せたい、とかいう気持ちはなかったと言ったら嘘だと思う。
けど。
なんでこんなに機嫌が悪いのだろうか。
翔とはよく口喧嘩をするので、こんな風にプリプリしているのはよくあることだ。
しかしそれにしては今日はなんだかいつもと様子が違うような気がした。


何かしただろうか。



怪我を隠していたこと以外で、もっと翔が怒りそうなこと。
剣山は記憶を辿る。
抱っこ、とか
カッコつけて、とか
そんなキーワードが頭の中に浮かんではぐるぐると回る。


あの時

 

 
抱っこして運んだのはダレだった?




剣山は思い当たった可能性を確かめるためにゆっくり口を開いた。




「オレ、カッコよかったどん?」

 

遠まわしな問い。

 


本当はこう聞きたかった。

 

『丸藤先輩、ヤキモチ焼いたどん?』



 


「そんなの、エドに聞きなよ!」
此処でエドの名が出てきたことで剣山は確証を得た。
にやける口元をなんとか誤魔化しながら返す。
「エドなんか寝てたざうるす」
「・・・」
返されて翔は、う、と詰まった。
「丸藤先輩」


「オレ、カッコよかったどん?」


「知らないよ!そんなこと!」
「・・見ててくれなかったどん?せっかく丸藤先輩にカッコいい所を見せようと思って頑張ったのに・・残念ざうるす」
剣山は落胆したように大袈裟にため息をついて見せた。
丸藤先輩に、を強調して言うと、翔は、ううと唸った。
それから渋々といった体で口を開く。
「・・ちょっとだけ、カッコよかったよ」
仕方ないから言ってやった、という風を装ってはいるが、顔はかなり赤い。
剣山は笑った。
「何ニヤニヤしてるのさ!」
「いや別ににやにやはしてないざうるす」
「してるじゃん。馬鹿みたい」
捨て台詞を吐くと、翔は廊下を走って行ってしまった。
離れた所で振り返り、また悪態をつく。
と、たーっと走って戻ってきて言った。


「さっきは蹴ってゴメンねっ」



可愛い、と思った。
 



思わず抱きしめそうになった腕をすり抜け、翔はまた走って行ってしまった。
今度は立ち止まらずに遠くなっていく。
剣山はつい緩んでしまう口元を何とか引き締めながらその後を追った。



 

 


END

 





剣翔

エドのこと姫抱っこしたので
ヤキモチ焼かれちゃいました(笑)
ジェネックス終了後ってことで。

ウチの剣翔は圧倒的に矢印が→こっち向きな場合が多いので
たまには剣山くんに良い思いをさせてあげようと。
・・・ささやかですが(^^ゞ

翔は無自覚だと思われますが
(やっぱまだ片思いかよ・笑)
(でも両思い目前ってカンジで)

2006.10.07

 

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