■「苦労している」(剣翔)■

剣→翔。剣山くん目隠しプレー(違)






「ちょっと剣山くん、まだ寝ていなくては駄目よ」
ベッドから出ようとしたら保健室教諭、鮎川に止められた。
「もう大丈夫ざうるす」
「まだ原因がよくわかっていないのだからもう少し大人しくしていて頂戴」
「でも」
なおも言い募ろうとした時、保健室の扉が開いた。
「どうしたんすか」
聞きながら大きな風呂敷包みを抱えた翔が入ってくる。
「ああ丸藤くん。剣山くんが帰るって聞かないから。キミからも言ってあげて」
「駄目だよ剣山くん、まだ寝てなきゃ」
「もう大丈夫ざうるす。アニキなんか一晩で回復したどん」
体力には自信があるから、こんなことで負けてられない。
「せっかくボクがお弁当作ってきたんだから大人しくベッドに戻るっす!」
抱えた風呂敷包みで押されるようにされて剣山は逆らうことも出来ずベッドへと逆戻りする。
翔に任せて大丈夫、と思ったのか鮎川は用事を済ませてくるからといって保健室を出て行った。
「そうだ!」
風呂敷を解いて、中のタッパーをベッドの上に広げて置きながら翔は言った。
「こうすればいいっす」
「な・・何するどん!」
翔は剣山に頭から風呂敷をかぶせて縛ってしまった。
バンダナで目まで隠してしまったような状態になる。
「カレンはこうすると大人しくなるんだよね?」
声が移動する。
ジムの分の弁当を手渡したらしい。
「・・カレンはな」
隣のベッドで様子を窺っていたジムが苦笑交じりに答えた。
「ワニと一緒にしないで欲しいどん!」
「電磁波で暴れるんじゃ一緒じゃん。大人しく寝てないとずっとこのままだよ!」
強い口調で言われて、ぐっと詰まる。
結局この小さい先輩に逆らうことなど出来ないのだ。
言うなれば惚れた弱み、といったところだろうか。
それでも何とか反撃を試みる。
「これじゃご飯食べられないざうるす」
正論だ、と思ったが簡単に棄却される。
「大丈夫、ボクが食べさせてあげるから」
ジムがピュウと、口笛を吹いた。
その冷やかすような音色を特に気にするでもなく、翔は剣山の口元に何か押し付ける。
「はい、あーん」
何かで唇をつんつんと突っつく。
口を開けろ、ということらしい。
「要らないならボクが食べるっす。爬虫類はフツーはエビフライ、食べないよね」
「爬虫類じゃないざうるす!食べるどん!」
「じゃ、はい。あーん」
促されて口を開ける。
其処へエビフライが突っ込まれた。
美味しい。


というかこの状況もかなり美味しい。


と、さく、と音がした。
「あ、食べたどん!」
「いいじゃん一口くらい!ボクまだご飯食べてないんだもん。お腹空いたんだよ」
翔がもごもごと口を動かしながら言い訳する。
「帰って食べればいいざうるす」
「そしたら剣山くんがご飯食べられないじゃん」
目隠しを取ってくれればいいだけの話だと思うが、これを外してくれる気はないらしい。


勝手に取ったら絶対に怒るのだろうし。


別に一口齧られたくらい、本当はどうでもいいのだ。
重要なのはそれが自分が齧ったエビフライだということだ。
間接キッス。
そんな単語が頭から離れない。
馬鹿みたいにどきどきしているのに、肝心のシーンはまったく見ていないのが悔やまれる。


剣山には話題を変えるしか手がなかった。
「・・エビフライ、丸藤先輩が作ったどん?」
「トメさんに手伝ってもらった。おにぎりはボクが作ったんだよ。はい」
手の上に乗せられたそれに齧りつく。
「真ん丸ざうるす」
「三角に出来ないんだもん」
「口に入れば形はどうでもいいよ。美味しいな、これ」
ジムが言った。


翔が嬉しそうに笑うのが目隠し越しでもわかった。


正直、面白くない。



と、急に翔の声がこちらを向いた。
「剣山くん、ご飯粒付いてる」
「どこざうるす」
「其処じゃない、もっと右」
「此処どん?」
「違う、此処だってば」
伸ばされた指先が、口元に触れる。
多分、そこについていたご飯粒をとってくれたのだろう、と思う。
ジムが再び口笛を吹いた。
「仲良しだね」
「は?何すか?突然」
「いや、ソーリー。無自覚なんだな」
「何が?」
翔がジムに気をとられている隙に、指先で布をずらして見てみる。
翔は自分の指についたご飯粒を舐めているところだった。
「いやその、今の、食べたから」
何を言われているのかさっぱりわからない、といった様子の翔に、少々歯切れが悪くジムが言った。
「え、だって勿体無いっすよ。お米には8人の神様が居るから粗末にしちゃいけないってお兄さんが言ってたし・・あれ7人だったっけかな?」
いや8人でいいと思う、けど。
冷静に突っ込みつつ、剣山は実はそれどころではなかった。



食べた。



特に意味があるわけではなく、無意識に食べてしまったのだろう。
翔は兄の言うことは絶対だと思っている節があるから、その教えを守っただけだ。


だが、どうしても顔が熱くなる。



「剣山くんどうしたの、顔赤いよ?」
「いや、なんでもないざうるす・・・」
「でもすごく赤い・・熱でもあるんじゃないの?」
翔の手が目隠し越しに額に触れる。
剣山の身体がほんの少し強張った。



この熱がすべて、翔に伝わってしまうのを恐れている。


「ボク鮎川先生呼んでくる」
翔は熱がある、と判断したのかそう言って立ち上がった。
「・・・それより目隠しとってもいいどん?」
「駄目」
控えめに懇願してみたが素気無く却下された。



翔が鮎川を呼びに保健室を出て行く。
扉の開閉する音を聞きながら長いため息をついた剣山にジムが言った。
「・・・いろいろ苦労してるみたいだな、ダイナボーイ」
気の毒そうだが、その台詞に少しの笑いが含まれているように感じる。

 

剣山は答える気にもなれずに黙って頷いた。



 

 

END

 




剣→翔

 

剣山くん目隠しプレー(違う・笑)
いやカレンは目隠しすると大人しくなるって言ってたから
剣山くんのことも大人しくさせたい時はそうすればいいよ、と思って。
アニキには明日香さんたちがお弁当作ってきてくれたので
剣山くんには翔が作ってきてくれればいい。

ジムは多分アニキたちと同じ年なんだろうけど
ちょっと面倒見の良さそうなお兄さんってイメージ持ってます。
剣山くんが翔のこと好きなのバレバレ。
そんで無自覚の翔に振り回されてるのをちょっと面白がりつつ
応援してます、みたいな。

翔は手が小さいから
おにぎり上手く三角に出来なくて
まん丸だと可愛いなー。


2006.12.02

 

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