■「欲しかったのは」(亮翔)■ 亮←翔。欲しかった言葉は。
夕日が海に沈んでいくのを見ながら
ボクは誰かを待っている。 この学園は孤島に建てられているから船着場があちこちにある。 大きな船が泊まれるものから小さなボートが着けられるものまで。 オシリス寮の近くにも小さな埠頭がある。 其処によく丸藤亮、お兄さんが立っているのに気がついたのは最近のことだ。 何をするわけでもない、ただ其処に立って海を見ている。 まるで誰かを待っているかのように。 「今日は居ないみたいだ」 お兄さんが居ないことに少しほっとして、ボクは其処に腰を下ろした。 ほっとしたはずだけど、でも少しがっかりしてる。 前者の感覚の方が強いような気がしてちょっと苦笑した。 お兄さんと顔を合わせるのは何だか気まずい。 また不甲斐ないって言われるのが怖いのかもしれない。 大好きなのになぁ。 いつかお兄さんにちゃんとボクを見てもらえるようになりたいって思ってるのに、現実はなかなか上手くいかない。 お兄さんが何を考えているのかボクにはさっぱりわからない。 此処にきてお兄さんと同じものを見れば少しはわかるかと思ったけど。 お兄さんは此処で、誰を待っているんだろう。 居なくなってしまった誰かが戻ってくるのを待っているんだろうか。 思考が流れて、学園を出て行ってしまった万丈目くんを思い出した。 夕日が沈んでいくのをぼんやりと見ながらボクは居なくなってしまった同級生のことを考える。 何処へ行っちゃったんだろうなぁ。 「おーい翔」 声に振り返るとアニキが走ってくるところだった。 「アニキ」 「こんなところに居たのか」 アニキはコンクリの上に座り込んだボクのところまで来て息を整えた。 「飯の時間だぜ。隼人が早く行こうってさ」 「うん、ごめん」 ボクは答えて立ち上がる。 「何してたんだ、こんなところで」 アニキはきょろきょろと辺りを見回して言った。 「船でも待ってたのか?」 「・・まあそんなトコかなぁ」 ボクは曖昧に笑って答えた。 それからアニキに言ってみる。 「万丈目くん元気かなぁ?」 「さあなぁ」 アニキは頬を指で掻いて少し考えてから言った。 「ま、あいつのことだから絶対元気で帰ってくるだろうよ」 「そうだね」 アニキの口調が万丈目くんを嫌ってる感じではないのでボクはちょっとほっとする。 「帰ってきたらまたデュエルしたいな」 「・・・アニキは本当デュエル好きだよね」 やれやれ口を開けばデュエルのことばっかりだ、と呆れた口調で言うとアニキはむうと口を尖らせた。 「何だよ、当然だろ。デュエルは楽しいんだから」 アニキはいつでも楽しそうだよね、本当。 「翔は万丈目とデュエルしてみたくないのか?」 「えーだってどうせ負けちゃうもん」 「そんなことやってみなきゃわかんないだろ」 「わかるよー。万丈目くんはオベリスクだよ?」 「どうしてお前はそうなんだよー」 押し問答にケリをつけるべく、アニキは腕を回してボクの首を絞めてきた。 本気じゃなくても結構苦しい。 ボクは慌てて話題を変える。 「それよりさ万丈目くんが帰ってきたら」 「まず『お帰りなさい』って言いたいな」 夕日を見ながら、考えてたこと。 何も言えなかったから。 帰ってきたときくらいは、せめて。 「・・そうだな」 アニキはそう言って回していた腕を解くとボクの頭をかき回した。 『お帰りなさい』 誰にも何も言わないで突然島を出て行ってしまった同級生。 多分向こうはオシリス・レッドのボクのことなんか覚えてもいないんだろうけど。 本当に言いたかったのは『お帰りなさい』じゃなくて『行かないで』 それを告げていたところで彼が残ったかどうかわからないけど。 でももし彼にそう言ってくれる人が、居たなら。 何か変わっていたのかもしれない。 そう思って。 「逃げ出すのか」 「おーい十代、翔―」 「おー!今行くー!」 待ちくたびれて呼びに来た隼人くんに手を振って答えてアニキはボクを振り返った。 「行こうぜ、翔」 「うん」 駆け出すアニキの後について走りながら、もう一度赤く染まった水平線を見る。 この場所は、『誰か』を待つところ。 夕日が海に沈んでいくのを見ながら ボクは自分が誰を待っているのかわからなくなってる。 END 亮←翔 お兄さんを待ってるんですよ、みたいな。 お兄さんは翔のこと大事にしてるのはわかるんだけど 言葉が足らないと思う。 そういう言い方じゃ突き放してるみたいに聞こえるよ、翔いじけるよ! 好きなようにさせてあげるのも良いけど 翔みたいな子には アニキのような強引さも必要なんですよ、お兄さん。 万丈目さんにもそういう相手がいてくれたら よかったのになぁ。 2005.02.16
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