■「キミの名を呼ぶ」(斎エド)■ 斎エド(+十翔)修学旅行の後。
「エドって斎王のこと大好きなんだね」
唐突にそう問われた。 「は?」 エドは思わず声をかけてきた相手をまじまじと見てしまった。 さっきまで黄色い車だった、背の低いデュエルアカディミアの生徒。 ついさっきまでこちらのことなどまったく意識の外、と言った顔をして十代と話していた。 「翔、酷い目にあったな。大丈夫か?」 「平気っす。絶対アニキが助けてくれると信じてたから」 「へへ・・サンキュー翔」 傍で聞いていても馬鹿馬鹿しい会話だった。 人の力を当てにして、信じてるとか、信じてないとか。 そんなこと、くだらない。 そのくだらない会話をしていた眼鏡の上級生が下から自分を見上げている。 何という名前だったか。 十代の側でいつもちょろちょろとしているから、顔は覚えている。 小さくて黄色い制服で眼鏡で水色の髪の毛でちびっこい、多分十代と一緒の学年。 『小さい』を繰り返していることに気がついてエドは眉を寄せた。 それが印象に残っているということなのだろう。 ようするに興味がないのであまり情報を頭に入れていないのだ。 多分十代と一緒でなければ視界にすら入れていないだろう。 そんな相手に突然そう言われて、なんだか馬鹿にされたような気がした。 「悪いか」 不機嫌な声になるのを止める気はない。 「親友だったんだ。好きだって構わないだろう」 「そりゃそうだ」 十代が何だか楽しそうに口を挟んできた。 「その方が美寿知の話も納得できるしな」 「美寿知の話?」 「悪い斎王といい斎王が居るって話」 『悪い斎王』 『いい斎王』 妙な表現だが、十代は彼なりに美寿知の話を自分にわかりやすい言葉で表したのだろう。 「オレ達にしたら斎王のせいで万丈目も明日香も何かヘンになっちまったんだからさ。あいつがいいヤツだって言われても、そうは思えないじゃん」 「そうだよね」 横で小さいのが合いの手を入れた。 「でもお前がそんなにアイツのこと好きならさ」 十代は続けた。 「お前の知ってる斎王はいいヤツなのかも、って思える。だから」 「『いい斎王』を助けるために頑張らなきゃな」 そう言って十代はにっと笑った。 仲間を人質にとられて、許せない、とか言っていたことはもう忘れたらしい。 切り替えが早く、前ばかり見ている性質のようだ。 あくまでもよく言えば、のハナシで、ありていに言えばただの馬鹿とも思えるが。 エドは苦笑した。 「・・・斎王もお前のそういうところが自分の運命の輪に係わってくると思ったのかもな」 エドの言葉に十代はちょっと考えるように唸った。 「運命の輪とか、そういうのオレは結構どうでもいいんだけど」 「斎王を助けるために協力するんじゃ無かったのか」 十代の台詞にエドの口調はきつくなる。 「うん、だからさ」 十代は言った。 「オレはお前に協力するんだよ、エド」 「ボクに?」 「だってお前は斎王を好きなんだからさ、助けたいだろ?それに」 「斎王はお前が助けてくれるって信じてるんだと思う」 信じてる? 斎王が、ボクを? 「『悪い斎王』のこと、自分でどうにも出来ないのなら、助けが来るのを待つしかねぇもんな」 十代とその隣の眼鏡は同じように腕を組んでうんうんと頷いた。 「早く助けてやんなきゃな」 そうしてまた十代がにっと笑うのをエドは見ていた。 「斎王もきっとエドのこと大好きなんだね」 小さいのがまた言った。 エドは再び声をかけてきた相手をまじまじと見る。 絶対アニキが助けてくれると信じてたから さっきのくだらない会話を思い出す。 父が死んだ時に、もう誰も信じないと思った。 だけど斎王が、泣いてくれたので。 側に、居てくれたので。 いつの間にか信じていた。 なのに、自分の知らないことが多すぎて。 信じられなくなった。 だけど、信じたかった。 もし本当に斎王が自分を待っているのなら。 「おっし!じゃあとりあえず戻ろうぜ。翔」 「あ、待ってよアニキ」 走り出した十代を水色の髪が追う。 そしてようやくエドは小さい上級生の名を知った。 「翔、か」 「・・琢磨」 プロになってから意識して呼ばなくなっていた下の名を唇にのせてみた。 唯一信頼する親友の名を。 END 十翔で斎エド アニキ大好きな翔と、斎王大好きなエドは 同じようなもんだよ、そう大差ありませんよっつーハナシ(笑) エドは本気で斎王以外はどうでもいいと思う。 死にそうな目にあってても傍観してそうだ。
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