■「キミが大切だから」(斎エド)■

斎エド(+丸藤)デッキ破壊の後。

 





大切にしてもらっていたことにさえ
気がつかなかった。

 



この学園に居ればいずれ斎王は何らかの行動を起こしてくるだろうと思った。
だからこの島を拠点にすることに決めた。
その読みはあながち間違いでもなかったようだ。
プロのデュエリストまで使って十代にデュエルを仕掛けてきている。
斎王は十代を気にしている。
十代の何がそんなに気になるのだろう。
再戦して負けはしたが、デュエリストとしては自分の方が上だと思うのに。
気に掛かることは他にもある。
万丈目、とかいうヤツの言っていた「光の結社」
それが一体なんなのかまったくわからない。
ずっと一緒に居たのに。
幼馴染で、親友だと思っていたのに。
・・・知らなかった。何も。

「あ、エド=フェニックス」

「こんなところに居たんだ」
声のするほうを見ると、いつも十代と一緒に居るメガネのヤツだった。
こんなところにわざわざやってくるなんて、鬱陶しい。
「何の用だ」
「別に用はないけど」
きつい口調で問うてやると不満そうに口を尖らせた。
「白寮の連中とかち合うと絡まれるからさ、遠回りしてきただけ」
それから言い返してくる。
「キミこそこんな所で何してるのさ。忙しいんじゃなかったの」
「・・・マネージャーが居なくなってしまったからな」
自嘲気味にそういうと大きな目をさらに見開いて聞き返してきた。
「え、お金持ってトンズラしたの?!」
「違う!」
その俗物としかいえない思考に思わず声が荒くなる。
「そんなことするもんか!ボクの親友だぞ」
小さな上級生は『親友』という言葉に何か思うところでもあったのか遠慮がちな口調になる。
「・・・何処行ったかわからないの?」
「・・・わからない。だが必ず此処に来るはずだ」
メガネの少年は首を傾げた。
「・・・よくわかんないっす」
「それはそうだろう。・・・ボクだってわからないことばかりだ」


「ボクに何も言ってくれないなんて・・!」



小さな呟き。
聞かせるつもりなどなかったその言葉を相手は拾ったらしかった。
「それ、大事にしてくれてたってことじゃないのかなぁ?」
「・・・大事に?」
「うん」
エドが聞き返すと上級生は大きく頷いた。
「何にも言わないってのは、エドに心配させたくなかったからじゃないかな」
「ボクに?」
「うん」



「多分、エドのことが大事で、護りたいから何も言わなかったんだと思うよ」


 

 

***
 

 

 


白寮の連中が鬱陶しくて、会わないように大回りしてレッド寮へ向かう。
珍しく翔はひとりだった。
一旦黄色寮の自分の部屋に寄ってきたからだ。
白寮のヤツらはちょっと顔を合わすと何だかんだと因縁を吹っかけてくるので面倒くさくて仕方ない。
色の違う制服も気に食わないらしいが、特に連中は十代のことが気に入らないらしい。
なんか、ヘンなことになっちゃったよなぁ。
白い服を着た万丈目と明日香を思い出して翔はため息をついた。
腹が空いてると思考も悪い方へ向かう。
翔はポケットを探って飴玉を取り出すと口に放り込んだ。
口寂しい時のためにポケットにはいつでも何かしら入れている。
飴を舐めながら進むと、この間、プロのデュエリストと十代がデュエルした洞窟の近くに出た。
そういやあの時、エド=フェニックスが来たんだっけ。
エドも年下ながらプロだ。
この前のデッキ破壊といい、プロのデュエリストっていろんなタイプが居るんだな、と思う。


・・お兄さんは今、どうしているだろう。


ふと見ると海辺に小型船があるのを見つけた。
甲板からぼんやり海を眺めているのは。
「あ、エド=フェニックス。・・こんなところに居たんだ」
そう言うとエドもこちらに気がついた。
思いっきり嫌そうな顔をする。
実に失礼で、でもわかりやすい。
一人で居たいタイプなんだろう。
「何の用だ」
「別に用はないけど」
冷たく問われて翔は口籠った。
「白寮の連中とかち合うと絡まれるからさ、遠回りしてきただけ」
翔の言い分にエドは鼻で笑った。
くだらない、と思ったのか、それとも臆病者、と思ったのか。
それは翔にはわからなかったがとにかく馬鹿にされた感じだけはわかったのでむっとする。
「キミこそこんなところで何してるのさ。忙しいんじゃなかったの?」
翔は精一杯意地悪く訊いてやった。
確か3年先まで予定でいっぱいだとかそんな事を言っていなかっただろうか。
「マネージャーが居なくなってしまったからな」
「え、お金持ってトンズラされたの?!」
「違う!そんなことするもんか!」
てっきりそんな話かと思って聞くと思いっきり否定された。
「ボクの親友だぞ」
よくわからないけれど、事情があるらしい。
翔は十代が居なくなってしまった時の事を思い出した。
必ず帰ってくると信じていたけれど、不安で心配でどうしようもなかった。
多分、エドもあの時の自分と同じような心境なんだろう。
「・・・何処行ったかわからないの?」
「・・・わからない。だが必ず此処に来るはずだ」
翔はエドのマネージャーが何故この学園に来るのかわからなくて、それを素直に口にした。
「よくわかんないっす」
「それはそうだろう。ボクだってわからないことばかりだ」
エドは再び鼻で笑う。
それはどちらかといえば自嘲気味ともとれる笑いだったので、翔は黙ってエドの言葉を聴いていた。


「ボクに何も言ってくれないなんて・・!」


絞り出された小さな声。
口を挟んでいいものか、翔はほんの少し迷った。
「それ、大事にしてくれてたってことじゃないのかなぁ?」



いつだって何も言ってくれなかった。
嫌われているのかと思うほどに。


だけどそうではなかったことを翔はもう知っている。




「大事に?」
「うん」
聞き返してくるエドに翔は大きく頷いてみせた。
エドがこんなに大好きな相手なのだ。
向こうだってエドの事を大切に思っているに決まっている。
「何にも言わないってのは、エドに心配させたくなかったからじゃないかな」
「ボクに?」
「うん」


「多分、エドのことが大事で、護りたいから何も言わなかったんだと思うよ」





「でもボクは言って欲しかったんだ・・」
エドは手をぎゅっと握ってそう言った。
「うん」

「だから会ったらそれをちゃんと伝えればいいよ」


それからポケットを探って飴を取り出した。
大きなそれをエドに差し出す。
「これあげる」
「飴?」
釣られて手を出したエドに飴玉を押し付ける。
「小梅ちゃんに2つしか入ってない大玉だよ」
そう言うとエドは不満そうにこちらを睨み付けた。
「ボクは子供じゃない」
「子供じゃん」


本当に大切に守ってもらっていたことにさえ
気がつかなかった。



それほど、ボクたちは子供だった。




***


 

用は済んだ、とばかりに帰っていく上級生を見ながらエドは飴の包みを開けた。
「子供、か」


口に入れた大きな飴は、とても酸っぱかった。



 

 

END

 





斎エドで亮翔

 

デッキ破壊の後くらいに書いて放り出してたのを
仕上げてみました(^^ゞ
お兄さんも斎王さまも
大事にしすぎてかえって相手に伝わってない気がします。

でも翔はお兄さんに大事にされてたことをもう知ってるから。
斎王さまもちゃんとエドのこと大事に思ってくれてるはずだと思うのです。
言ってくれないのは大事だからだと思うのです。

だからエドから斎王さまが大事だよ大好きだよって言ってやればいい。

小梅ちゃんに2つしか入ってない大玉ってのが妙にリアルですな(笑)




2006.08.18

 

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