■「キミの手のひらから」(斎エド)■ 斎エド。斎王さま初めてのお友達。
破滅の運命から逃れたいと、強く願っていた。
だけどただ為す術もなく、 流されていくしかないのだと思っていた。 「こんにちは」 近所の主婦の集団が道端でたむろしている。 「こんにちは」 くだらない話を繰り返すその塊に、表面上は愛想よく返答した。 にこやかな笑顔の下で、しかし自分が通り過ぎた後何を囁きあっているかはだいたいわかる。 占いを生業として暮らすようになってから、以前ほどの拒絶や否定は受けなくなった、とは思う。 だけどやはり噂というものは人の口から口へと漂うもので。 腕のいい占い師であるという斎王の噂話には、未来が見えるとかそういう話ももちろん付いて回っていた。 昔と比べたら段違いにマシ、とはいえ、それでも異端のモノを見る目に動けなくなる時がある。 冷たい、視線。 その視線に曝されて、まるで指先から凍って痺れていくような・・。 「斎王!」 「・・エド」 自分を呼ぶ声に顔を上げるとスーパーの袋をぶら下げたエドがこちらに向かって走ってくる所だった。 可愛い、小さな少年。 凍える視線がほんの少し和らいだのを感じる。 ああ、こんなところでもエドを利用してしまっているのだ。 勢いよく走ってきたエドは、斎王を見上げてホンの少し眉を寄せた。 「斎王、どうしたの?何かいやなこと、あった?」 「いや、何でもないよ」 聡い少年に誤魔化すようにそう告げる。 「それよりその袋、なんだい?」 「これ?」 エドは得意気に袋を持ち上げて見せた。 「牛乳だよ!今日は美寿知がボクにプリンを作らせてくれるって言うから」 「ああ、そうだったね」 市販の粉に牛乳を加えて温めた後、型に入れて冷やして作る、プリン。 エドの父も生前そうだったようだが、小さな子に火を扱わせるのは危険だということで、 斎王の家でもまだエドにガス台を使わせたことはなかった。 それが初めて許可が出て、美寿知監修の元とはいえ自分で作れるということで、エドは本当に嬉しそうだった。 「斎王にもあげるからね!」 「ありがとう」 礼を言いながらさりげなく斎王はエドから荷物を受け取ろうとした。 牛乳一本とはいえ重いだろうと思ったのだ。 しかしエドはその手を避けた。 「エド?」 「自分で持つからヘイキ」 言い出したらきかない性格をしているのはもう知っているので、斎王もそれ以上強くは言わず、伸ばした手を引こうとする。 しかしその手をエドが空いている方の手で掴んだ。 きゅ、と握り締められる。 見下ろした斎王にエドは照れくさそうに笑った。 温かい手。 手を、繋ぐ。 ただそれだけで。 エドの温かい手から何かが流れこんでくる。 凍えていた指先が融けるのがわかる。 自分も、他人も まるで一枚のカードのようにしか思えなかった。 けれどエドと居ると 自分も血の通った人間なのだと思える。 「エドの手は温かいね」 斎王は言った。 「そう?」 エドは首を傾げる。 「うん。とても温かい」 「ずっと手を繋いでいても、いいかな?」 斎王の問いにエドは迷うことなく笑顔で頷いた。 破滅の運命から逃れたいと、願っていた。 だけどそれ以上に この温もりを手離したくないと強く思った。 この手を繋いでいたいと。 運命に流されるのではなく、自分の意思で。 END 斎エド 大事な初めてのお友達、ってことで(^_^) 他にそういう信頼できる人も居なかったみたいだしね。 斎王さまはエドを利用するつもりで近づいたそうですが 本来そういうことできる性格ではないのだと思うのです。 そんなことできたら美寿知とふたりで行く当てもなく放浪してる生活なんてしてないと思う。 「キミの手のひらから」はいつか使おうと思っていたタイトルですが 斎エドで使うとは思ってなかった(^^ゞ
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