■「子供のように見えるのは」(三万)■

三万。準たんが学園を出てく時の話。指切り。


 




約束が、小指に残ってる。





「万丈目」
学校の近くで三沢は万丈目に出くわした。
つい先日デュエルをしたばかりの相手。
勝ったのは三沢だが、カードを海へ捨てられたりしたのであまりいい印象は持っていない。
多分向こうも同じだろう。
係わらないほうがいいかな、と思いつつつい声をかけてしまう。
「何処へ行くんだ」
万丈目が肩から大き目のバッグを背負ってこれから登校するとは思えない格好だったからだ。
「貴様には関係ない」
「まあ、そうだろうけど」
取り付く島もない返答にやれやれと肩を竦めてみせる。
それからふと思い出して訊いてみた。
「まさか、本当に出て行く気なのか?」
デュエルをするときに万丈目はそんな条件を言っていたように思う。
『負けた方が退学』
だがあれは自分がオベリスクブルーに上がることを辞退したのだから無効となったはずだ。
「貴様には関係無いと言った」
「・・・まあそうなんだけど」
先ほどと同じ問答を繰り返す。
埒が明かない。
「でももう少し何か言ってくれてもいいんじゃないか?」



「デュエルは、オレが勝ったんだし」



相手の神経を逆なでするとわかっていて、言った。



「だから!」
万丈目は叫ぶように言った。
「出て行くといっているだろう」
ああ、やはりそうか、と三沢は思った。
そういう約束だったから出て行くというのだ。


カードを海へ投げ捨てるような、そんな卑怯な手段を使う相手なのに、どこか生真面目だ。

融通が効かないというか。



「・・別に出て行くこともないだろう。オレはオベリスクブルーへは行かないんだし」
三沢は言った。
関係ないと散々言われたにもかかわらず、万丈目を引止めにかかっているのを自分でも面白いな、と思う。
そう、関係ない。
だけど、興味が湧いた。
この短い時間の中で。
もしかしたら決闘のときにすでに興味を抱いていたのかもしれない。
「寮入れ替えの話はクロノス教諭が勝手に言い出したことだから、」
「うるさい」
三沢の話を遮ってそんなものなど聴く気はない、とばかりに万丈目は横をすり抜けた。
「万丈目」
「お前には関係ない」


そういう約束だったから、出て行くという。

彼の理屈はわかる。

わかるけれど、そう言い張る万丈目が子供のように見えるのは何故なのだろう。



小さな子供が泣いているように、見えるのは何故なのだろう。



駄々っ子のようだ、と思う。



「わかった」
どうあってもこちらの意見など聞く気のなさそうな万丈目に三沢は白旗を揚げることにした。
しかし、負けるのは気に食わない。
「じゃあ、行っておいで」
「・・・何だそれは」
三沢の言い回しに万丈目が不審げに眉を寄せる。
「行ってもいいから早く帰って来い、ってことさ」
「言われなくても帰ってくる」
万丈目は言った。
「次はお前など叩きのめしてくれる」
強い瞳。
面白い、と思う。
こんな目が出来るのならば心配することもないだろう。
「楽しみにしてるよ」
三沢は心からそう言った。
だが万丈目にとっては気に入らない態度だったようだ。
嫌な顔をした。

「じゃあ」
そう言って三沢は万丈目の目の前に自分の小指を突き出した。
「・・何だ、これは」
万丈目はその指を見て、それから三沢を睨み付ける。
「約束だよ」


「オレが勝ったんだから、少しは言うこと訊いたっていいだろう」



「このまま逃げられても面白くないしね」
我ながら人が悪いと思いつつ、再びそう言った。
万丈目はさっきよりもさらに露骨に嫌な顔をしたが、大人しく三沢の指に自分の指を絡めた。
細い、指。
同級生と比べても自分は大きい方だと思っていたが、触れて初めてその差に気がついた。
心の中の何かを誤魔化すように歌を歌う。



嘘ついたら針千本



「必ずお前を叩きのめしてやる」
短い歌の終了とともに指を振りほどくと万丈目はそう言った。
「楽しみにしているよ」
三沢は先ほどと同じ返答をしてにこりと笑って見せた。



「アニキ大変だよ!」
授業が始まる直前に教室へ飛び込んできた翔が万丈目が行方不明だと十代に告げた。
それを聞きながら、出て行ったことを教えてやろうかどうしようかほんの少し迷う。
「・・・まあいいいか」
結局三沢は言わないことにした。

帰ってくると約束したのだ。

別に言わなくてもいいだろう。



 

 


思いがけなく細い感触が、小指に残ってる。

 

 

 

END

 





三万

 

と言い張ってみる(笑)




2005.04.04

 

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