■「お守りはもういらない」(三万)■ 三万。三沢と準たんデュエル後。白い錠剤。
何故自分はあんなことをしたのだろう。
ペンキを塗った部屋は一晩立ってもなんだか臭いが充満していて眠れそうもない。 そうメールすると十代から『じゃあもう一晩オシリスに泊まるか?』という返事が返ってきた。 ありがたくそうさせてもらうことにして三沢は自分の寮を出た。 オシリスレッドの寮は学校から遠い海の近くに立っている。 すっかり暗くなった道を波の音を聞きながら歩く。 何故。 何故、彼はあんなことをしたんだろう。 三沢はその音を聞きながら考えていた。 自分のカードを海に捨てた、万丈目。 ラー寮の三沢の部屋まで来て、カードを盗っていって。 誰に見られるかわからない、そんなリスクを負ってまで。 普通に考えれば三沢のほうが格下なのだからそこまでする必要性は無い。 無い、筈だ。 いつでも自信に満ち溢れているように見えたのに。 そう見えていた、だけだったのか? 思えば同級生ながら彼のことは何も知らない。 ふと顔を上げた先、海辺の岩場に三沢は黒い影を見つけた。 今まさに自分の思考の中に居た人物。 声をかけるべきかどうかほんの少し考えた後、結局三沢は前者を選択した。 「こんなところで何をしているんだい?」 万丈目の背中がびくりと強張る。 「自殺でもしそうだね」 そんなこと何でもないような顔でさらりと三沢は言った。 振り返った万丈目は三沢を認めるときつい声を出した。 「貴様には関係ないだろう」 「まあね」 確かにそうだと三沢は肩をすくめて見せる。 「でも水死体は膨れちゃってそりゃあもう見た目が悪いっていうよ」 一呼吸おいてさらに続ける。 「片付ける人は、嫌だろうね」 三沢はそう言って万丈目を見上げた。 嫌な、ヤツだな。 我ながらそう思った。 人当たりが良くて、成績も良い生徒。 周囲の三沢の評価はだいたいそんなところだ。 万丈目も多分三沢をただの真面目な優等生だと思っていたのだろう。 三沢の物言いに目つきを鋭くした。 悪いね、こういうヤツで。 心の中で謝ってみる。 もっともそれを口に出して言う気は無い。 「死にたいなら止めないけど?」 「・・・とんだ優等生だな」 思ったとおりの反応に三沢は軽く笑った。 「人に迷惑をかけるな、ってことさ」 万丈目は益々嫌な顔をした。 それから、無視するに限ると思ったのかこの場から立ち去ろうとする。 「万丈目」 「何だ」 三沢は思わず呼び止めた。 呼びかけが聞こえなかった振りをして行ってしまうかと思ったが、万丈目はいらいらと返事をして振り返った。 逃げた、と思われるのは嫌らしい。 三沢はそう分析する。 呼び止めたもののその先を考えていなくてさらに思考を巡らせた三沢は、ふとポケットの中に入っているものを思い出した。 「コレをあげるよ」 放られたものを万丈目は反射的に受けとった。 ピルケースに入った、白い錠剤。 「何だこれは」 「睡眠薬」 さらりと答えた三沢に万丈目は嘲るように言った。 「馬鹿か貴様。こんな薬一錠くらいで死ぬか」 「でもそれはすごく強い薬なんだ」 何故自分はこんなことをしているのだろう。 「こんなもの」 いらない、と放り返そうとしたが三沢の言葉に遮られた。 「死ぬなら人に迷惑かけないで欲しいと思ってさ」 嫌なヤツ。 再度思う。 わかっていてこういう言い方をする自分が嫌だ。 しかし。 「・・・そういうのを自殺幇助というんだ」 万丈目はしばしの沈黙の後、搾り出すようにそう言った。 「別に助けてるつもりは無いよ」 「だってキミはそんなもの飲まないからね」 「知ったような口を叩くな!」 三沢の言葉に万丈目は突然激昂した。 「オレのことなど何も知らないくせに・・!」 「ああそうだ、知らない」 万丈目の憤激に動じずに三沢は言った。 「でも生きていればこれから知ることも出来る」 「人間、必ず死ぬんだよ」 知ったかぶりのエセ哲学者のようだ、と三沢は思った。 それでも出来るだけゆっくり、説教くさくならないように、話す。 何故自分はこんなことをしているのだろう。 黒三沢(笑) 万丈目さんに興味津々なのはいいけど どうも性格が悪いウチの三沢さん・・。 私は花粉症ではありませんが
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