■「気になっていた」(三翔)■ 三→翔。何故か気になる。
何故か、気になっていた。
「ねえ、アニキ」 考え事をしていた三沢はすぐ近くで聞こえた声に意識を浮上させた。 男にしては高めの声。 その声が誰のものか知っている。 オシリスレッドの丸藤翔だ。 頭の中で組み立てていた数式が遠のく。 「小原くんがオベリスクブルーの奴とデュエルするんだって。応援に行こうよ」 「そうだな」 十代は翔の言葉に頷いて身軽に立ち上がった。 「オベリスクに負けないくらい大きい声で応援してやろうぜ」 「うん」 その様子を見るともなしに眺めているとそのまま十代と連れ立って教室を出ようとして、ふと翔は立ち止まった。 「三沢くんも行かない?」 「・・・ああ」 突然声をかけられて少し反応が遅れる。 「・・此処を片付けたらすぐ行くよ」 「そう、じゃあ先に行ってるね」 机の上に散らかったノートや筆記用具を示してそういうと翔は頷いて十代を追って行った。 オシリスの赤い制服が教室の外へ出て行くのを見送って片付け始める。 もともとその決闘は見に行くつもりだった。 気になっていたから。 小原。 同じラーイエローの小柄な彼は腕はあるのになかなか実力を発揮できない。 気が弱いのだ。 オベリスクブルーの生徒などに野次られたりするとすぐに落ち着きを失ってしまう。 強いのに、もったいない。 そう思っていた。 それだけだ。 それだけなのに、何故かそれが気にかかっていた。 解けない数式のように。 決闘を見に行くともう終盤といったところだった。 この間と同じ小原優位の戦況。 翔たちはやはり同じ場所でそれを観戦していた。 先日と同じように三沢は翔の隣に立った。 「それで」 突然話しかけられて翔は驚いたように三沢を見上げる。 「闇夜の巨人デュエリストは見つかったのかい?」 「ええと、それは見つからなかったんだ」 「へえ」 ほんの少し意地悪くそう返すと翔は誤魔化すように付け加えた。 「結局レポート書かなきゃいけなくなっちゃって大変だったよ」 あはは、と翔が笑う。 「そうか」 見つからなかった、というのは嘘だと三沢は当然気が付いたがそれについては言及しなかった。 本当は犯人の見当もついている。 場内が沸く。 リング上に目をやると小原が壁モンスターのいなくなった相手にダイレクトアタックを決めたところだった。 敵のライフがゼロとなり、デュエルの決着が付く。 「勝った!」 翔が立ち上がって言った。 「嬉しそうだな」 先ほどと同じように揶揄をこめて言ってみる。 「うん」 翔は素直に頷いた。 「なんかさ、小原くんって」 「ちょっとボクと似てるかなあって」 「似てる?」 三沢は翔の言葉を繰り返した。 似ているだろうか。 小柄で。 気が弱くて。 本当は強いのになかなか勝てない。 「あがり症なのかなぁ。何か本番になると上手くデュエルできないっていうか、そういうところが、ちょっとさ」 翔はそう言ってそれから苦笑とともに付け加えた。 「まあ向こうはラーイエローでボクはオシリスレッドなんだけどね」 「だが翔も結構やるじゃないか」 三沢は以前見たタッグデュエルを思い出しながら言った。 あの時、三沢は内心翔がパートナーでは勝てないだろうと思っていた。 三沢だけでなく、多分あの会場にいたほとんどの人が。 だが大方の予想を裏切って、翔たちは勝った。 十代の力に依るところは大きいだろう。 だけど。 「迷宮兄弟とのデュエルはオレも見たけれど、なかなかだったぞ」 「あれはアニキのおかげで勝てたんだよ」 褒められてちょっと照れたように翔は頬を掻いた。 「翔、小原のトコ行って来ようぜ」 その十代が言った。 「うん」 答えて翔が三沢を振り返る。 「三沢くんも行こうよ」 「・・・ああ」 「あ、待ってよアニキ」 十代の後を追って翔が階段を駆け下りていく。 「そうか、似てるのか」 三沢の呟きは決闘場のざわめきの中に消えた。
三→翔 小原くんが気になってたのは似てるからなんですよ、みたいな。 この回は翔と三沢さんすごく喋ってたよね、つことで。 2005.02.27
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